• 6 / 17 ページ

2人のたかみな

「今日たかみなは?」

楽屋で前田敦子は誰に聞くでもなく、声を発した。

「休みだってさ」

それに答えたのは、篠田麻里子だった。

「休み? 風邪とか?」
「いや、ただの休暇だって。なんかすっごい前からこの日だけは休みにしてたみたいで、運営側も何も言えないらしいよ」
「へえ、すっごい前からねえ……何してんだろ」
「さあ?」

ここで会話は途切れる。
楽屋は仲のいいメンバーが固まってはいたが、あまり私語は無く、携帯をいじって各々時間を過ごしていた為に静かだった。

「たかみな休みなのかー」

ここで口を開いたのは小嶋陽菜だった。

「なんだい、なんだい、こじぱはたかみながいいのかい?」

そう言って小嶋に寄り添っているのは大島優子。

「いやーなんというか、総選挙も近いのにいいのかなあーなんて思って」

小嶋の発言に見えない緊張が現場に走る。

第3回選抜総選挙。
今年でついに3回目を迎えるが、誰一人として緊張しないものはいない。
誰もがデリケートに扱うこの言葉を小嶋はあっさり投下する。

「ま、まあ、たかみなだからね。うん。」
大島がフォローにもならない意味の分からない発言で沈黙を埋める。
乾いた笑いが現場を包む。

「たかみなに電話してみようっと」

そんな空気をさらに気にせず、前田がおもむろに携帯電話を手に取る。

「わざわざ仕事休むくらいだから、出ないのかな?」

発信ボタンを押し、携帯を耳にあてる。
前田の心配とは裏腹に2コール目であっさり高橋は電話に出た。

「もしもし? 何?」
「何で今日休むの? 何してんの?」
「いや、家にいるだけだよ」
「えー、じゃあ仕事来てよ」
「……ごめん。今日は絶対無理」
「だって家にいるだけなんでしょ? さぼってないで来てよ」
「ホント、今日は無理なんだよ」
「どうしてよ?」
「それは……ちょっと言えない」
「なにそれ」
「大丈夫だって。すぐに代わりが行くから」
「代わり?」
「うん。じゃあね、もう切るね」
「え、あ、たかみな!?」

ここで高橋は電話を切った。

「切られちゃった」
前田は携帯をしまうと、改めて周りを見回して、言う。
「代わりって……何?」

今の会話を聞いていた、他のメンバーも疑問を隠せない。

「普通に考えたら、自分の代役が行くってことだよね」
篠田冷静に答える。

「アンダーってこと?」
「それにしては様子が変だったよね」

高橋の謎の発言について静かだった楽屋が少々盛り上がる。
そこへチームKキャプテン、秋元才加が電話を片手に入ってきた。
「はい……はい……わかりましたー……了解でーす」
電話はちょうど終えるところだったらしい。

「何の電話?」
前田は何も考えずに聞いてみた。
むしろ、秋元には高橋の発言についての意見を聞きたかった。
しかし、秋元の電話の内容は誰も予想し得ないものだった。

「うん。今戸賀崎さんから連絡があったんだけど、たかみな来るってさ」
「ええ!?」

秋元を除く部屋にいたメンバーが同時に驚く。
「な、何そんなに驚いてんだよ」
秋元は驚くメンバーに驚いた、という感じだ。

「そんなわけないよ。だってたった今たかみなと電話して、絶対来ないって言ってたんだよ?」
「え? たかみなが?」
「電話では家にいるって言ってた」
「私は戸賀崎さんと一緒に車で向かってるって聞いたけど?」
「ど、どういうことそれ?」
「わからんなあ……話によると、アキバで大勢のファンに追っかけられて劇場に逃げ込んで来たところを保護したってさ」
「なんじゃそりゃ」
「なんかの冗談かと思ったけど、マジらしい」
「じゃあ……今私が電話してたのは誰?」

場の空気が一気に不穏になる。
明らかに高橋が2人いるような状態。
世にも奇妙な物語である。

「なんか怖いな……。しかもたかみなは今日は使い物にならないかもしれないらしいぞ」
「使い物にならない?」
「意味不明な発言を繰り返してるだとか」
「それホントなの?」
「だって戸賀崎さんが真面目に言ってんだもん」
「仕事のしすぎで頭おかしくなっちゃったのかな」

考えてみれば、さっきの電話での発言も意味不明であった。
だとしたら、頭がおかしくなった高橋が車の中で電話していたということも考えられる。
高橋に頼ってばかりだった日々を少し反省する。

「と、とりあえずその頭がおかしくなったたかみなが来るのを待とうか」

この状況を信じられない気持ち半分、本当だとしたらかなり怖いという気持ち半分でメンバーは高橋の到着を待つことにした。

更新日:2011-12-13 00:26:46

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook