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焦る気持ち
「おはようございまーす」
高橋が楽屋に入って挨拶するも、返ってくる挨拶にはどこか元気が無い。
おそらく他のメンバーも自分と同じことを感じているのだろう。
必死に努力してレッスンに励んできた。
やっとの思いで初回公演にたどり着いた。
しかし観客はほとんどいない。
世間は私達がどれだけ練習してきたかなんてことは知り得ない。
知らないものは知らない。
だからわざわざ劇場に足を運ぶことなんてしない。
極々当たり前のことだが、その現実を中々受け入れられなかった。
「これから私達どうなるんだろ」
「どうなるんだろうねえ」
劇場の廊下を歩きながら、メンバーの中でも同い年で仲のいい前田敦子に不安な気持ちを漏らす。
こんなことを話せるのも、ここまで一緒に頑張ってきた心を許せる仲だからだ。
「このまま人気が出なかったらどうしよう」
「出るよ……いつかは」
前田は冗談混じりで答えた。
ここまでシビアな話は誰だってしたくないものだった。
すぐに話題を変えてしまいたい、そんな口ぶりだった。
しかし、高橋はそんなことを考える余裕もないほどに焦っていた。
「いつかって、いつ?」
高橋の口調は強くなった。
「そんなのわかんないけど……いつかは売れないとやばいよね」
「そんないつかなんてもう言ってられないじゃん!」
高橋は半分怒鳴るような声になっていた。
突然のその声に前田は驚く。
丸い目をもっと丸く見開いて。
「きゅ、急にどうしたの?」
「正直……私はもう無理なんじゃないかと思ってる」
「え?」
前田がポカンとした表情で高橋を見る。
しかし次第にその表情は険しくなった。
「……それ、本気で言ってんの?」
「本気っていうか、なんていうか……正直な今の気持ち」
「本気なんだ……もう無理って」
前田は下を向いて高橋の言葉を繰り返す。
そして顔を上げて高橋の目をまっすぐ見て言う。
「だとしたら……迷惑だよ」
「え?」
「そんな気持ちの人がメンバーにいたら出来るもんも出来ないよ! 迷惑!」
前田のいつものおっとりした口調が急変した。
驚く高橋だったが、迷惑、とまで言われて黙っているわけにはいかない。
「確かにそうだけど……じゃああっちゃんはAKBが本気で売れると思ってんの?」
「当たり前じゃん! AKBなんてまだ通過点で、その先を見なきゃいけないんだよ?」
「だって現実こうじゃん! 何にも報われない!」
「報われない?」
「あっちゃんだって一緒に残ってダンスの練習したじゃん! あんなに頑張ったのに現実はこうだよ?」
「だからってもう諦めるの?」
「もう、じゃない……やっと、だよ」
諦めるタイミングなんて今まで沢山あった。
それを何とか乗り越えてきたが、もう限界だ。
やっと、諦められる。
「たかみなが……平気でそんなこと言う人とは思ってなかったよ」
「普通そう考えるよ。無理だって」
「……たかみなのことなんてもう知らない……」
「いいよ……私はもう辞めるから」
泣き顔は見られたくなかった。
すぐ近くにあったドアノブを強引に引っ張って部屋に閉じこもる。
そこは誰も使っていない真っ暗な部屋だった。
「やっちゃったよ……完全な逆切れだ……」
壁にもたれるように座る。
「私……最低だ」
前田には何も悪い点が無い。
完全に高橋が一方的に悪かった。
人気が出ないことへの焦り。
そして諦める自分を肯定したい気持ち。
そんな中で諦めなんてことを毛頭考えない前田に理不尽にキレてしまったのだった。
「あっちゃんごめん……」
誰もいない部屋に高橋の涙のすする音だけが響いていた。
高橋が楽屋に入って挨拶するも、返ってくる挨拶にはどこか元気が無い。
おそらく他のメンバーも自分と同じことを感じているのだろう。
必死に努力してレッスンに励んできた。
やっとの思いで初回公演にたどり着いた。
しかし観客はほとんどいない。
世間は私達がどれだけ練習してきたかなんてことは知り得ない。
知らないものは知らない。
だからわざわざ劇場に足を運ぶことなんてしない。
極々当たり前のことだが、その現実を中々受け入れられなかった。
「これから私達どうなるんだろ」
「どうなるんだろうねえ」
劇場の廊下を歩きながら、メンバーの中でも同い年で仲のいい前田敦子に不安な気持ちを漏らす。
こんなことを話せるのも、ここまで一緒に頑張ってきた心を許せる仲だからだ。
「このまま人気が出なかったらどうしよう」
「出るよ……いつかは」
前田は冗談混じりで答えた。
ここまでシビアな話は誰だってしたくないものだった。
すぐに話題を変えてしまいたい、そんな口ぶりだった。
しかし、高橋はそんなことを考える余裕もないほどに焦っていた。
「いつかって、いつ?」
高橋の口調は強くなった。
「そんなのわかんないけど……いつかは売れないとやばいよね」
「そんないつかなんてもう言ってられないじゃん!」
高橋は半分怒鳴るような声になっていた。
突然のその声に前田は驚く。
丸い目をもっと丸く見開いて。
「きゅ、急にどうしたの?」
「正直……私はもう無理なんじゃないかと思ってる」
「え?」
前田がポカンとした表情で高橋を見る。
しかし次第にその表情は険しくなった。
「……それ、本気で言ってんの?」
「本気っていうか、なんていうか……正直な今の気持ち」
「本気なんだ……もう無理って」
前田は下を向いて高橋の言葉を繰り返す。
そして顔を上げて高橋の目をまっすぐ見て言う。
「だとしたら……迷惑だよ」
「え?」
「そんな気持ちの人がメンバーにいたら出来るもんも出来ないよ! 迷惑!」
前田のいつものおっとりした口調が急変した。
驚く高橋だったが、迷惑、とまで言われて黙っているわけにはいかない。
「確かにそうだけど……じゃああっちゃんはAKBが本気で売れると思ってんの?」
「当たり前じゃん! AKBなんてまだ通過点で、その先を見なきゃいけないんだよ?」
「だって現実こうじゃん! 何にも報われない!」
「報われない?」
「あっちゃんだって一緒に残ってダンスの練習したじゃん! あんなに頑張ったのに現実はこうだよ?」
「だからってもう諦めるの?」
「もう、じゃない……やっと、だよ」
諦めるタイミングなんて今まで沢山あった。
それを何とか乗り越えてきたが、もう限界だ。
やっと、諦められる。
「たかみなが……平気でそんなこと言う人とは思ってなかったよ」
「普通そう考えるよ。無理だって」
「……たかみなのことなんてもう知らない……」
「いいよ……私はもう辞めるから」
泣き顔は見られたくなかった。
すぐ近くにあったドアノブを強引に引っ張って部屋に閉じこもる。
そこは誰も使っていない真っ暗な部屋だった。
「やっちゃったよ……完全な逆切れだ……」
壁にもたれるように座る。
「私……最低だ」
前田には何も悪い点が無い。
完全に高橋が一方的に悪かった。
人気が出ないことへの焦り。
そして諦める自分を肯定したい気持ち。
そんな中で諦めなんてことを毛頭考えない前田に理不尽にキレてしまったのだった。
「あっちゃんごめん……」
誰もいない部屋に高橋の涙のすする音だけが響いていた。
更新日:2011-12-03 05:06:56