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はるニャン

「勇人君~~~、またね~~~」
 廊下で琴音と別れ、俺はA組の教室に向かった。
 教室には毎度のことだがみはるの姿がある。こいつは誰よりも早く教室に来ることを誇りに思っているらしい。
「今日も早いな」
 鞄を机に置きながら軽く声をかける。
「おはようニャン!」元気良くみはるが叫んだ。
「……」ん?
「どうかしたのかニャ?」
 その言葉、変な語尾以外お前にそっくりそのまま返すぞ。
「やれやれ」
 俺はとりあえず椅子に座った。できる限りみはると離れたいが、俺の席は残念なことにみはるの隣なのだ。あー席替えしたい。
「あたしね、今日一日猫になるニャン」
 みはるは意味不明の宣言をした。学校征服宣言と同じぐらい意味不明な宣言だ。
「……」
「はるニャンって呼んでニャン」
「……」
 じーっと俺を見つめるみはる。いや、猫なのか?
「ニャにか言えっ!」
「ぐわっ!」
 バリバリと顔を引っかかれた。
「と、特に感想は無い! どうせお前は何を言われても怒るしな!」
 くそっ、本気で爪を立てやがって……。
「つくづくつまらない男だニャ。死ぬがいいニャ」
 みはるは立ち上がった。あ、ちょっとだけ猫背になってる。よくわからないけど芸が細かいな。
「みのりーん。一緒に遊ぼうニャン」
 あ、小野さんが捕まった。気の毒なことだ。
「ど、どうしたの、真殿さん? ついに頭がおかしくなった?」
 小野さんは戸惑いの表情を浮かべた。
「ニャンてことぬかすっ! この貧乳!」
 猫だから何か上手いことを言うのかと思ったら、毎度おなじみの暴言かよ。
「う、うるさい! 貧乳って言うな! それにニャンとかムカつくし!」
「あたしが可愛いからって妬くニャ妬くニャ」
「そ、それがムカつくのっ! ニャンとか言うなっ!」
「だって猫だもん、仕方ないニャーン」
「しっしっ! あっち行け!」
 小野さんはみはるを追い払った。
「あ、みく! ニャンニャン!」
 長谷部が教室にやってきたので、小野さんは命拾いをしたな。
 みはるは長谷部に駆け寄った。いつもより敏捷性も増していてかなりウザイ。
「みくっ! おはようニャン」
 みはるは長谷部の前にぴょんと飛んだ。
「……」長谷部は当然無視。
「おいっ! ニャンで無視するニャ?」
「……うるさい」
 長谷部は窓際の自分の席に座った。
 みはるはしつこく長谷部を追っていく。
「あたしはね、今日一日猫になるニャ」
「よかったね」
「ニャン!」猫っぽいポーズをするみはる。
「わたしには一切関係ない」
 当然だが長谷部は物凄く迷惑そうだ。
「みくは兎に似てるから、兎になるといいニャ!」
 みはるは長谷部の怒りに油を注いだ。
「よし、みくピョン! 一緒に決めポーズするニャン。せーの……」
 ぺちっ!
 長谷部はみはるの頬をひっぱたいた。
「あっち行け、馬鹿猫」
「ニ、ニャンということを……!」
 みはるは叩かれた頬を押さえてブルブルと身を震わせた。
「絶対に許さニャいっ!」
 あ、普通に喧嘩が始まったぞ。猫と兎の喧嘩が……。


「二時間目は物理か。つくづくやってらんないわね……」
 一時間目終了後、みはるが苦々しく呟く。
「ん?」
 今こいつ普通に喋ったよな?
「何よ? アホ面してこっち見てんじゃないわよ。殴られたいの?」
「……」
 俺は無言で次の授業の準備をした。
 なるほど。
 飽きたんだな。
 みんなからのウケもよくなかったし……。
 まあ、小野さんならともかく、みはるが猫真似しても、誰得って感じだよな。


 嫉妬じゃないっ! に続く。

更新日:2011-12-31 07:48:43

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真殿みはるは全てを統べるっ!