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扉を叩く音がして、秘書が二つのコーヒーを持ち、中に入ってきた。

結衣と誠一郎の前にカップを置くと、すぐに出て行ってしまう。


「安西さんは、『ERGORA』の社員として、
高級化粧品を売るのならいいかもしれない。
でも、単価の安い商品を、売り込む営業には向いてませんね。
あの態度じゃ、相手を怒らせるか、呆れさせるかどちらかです」


結衣は、誠一郎の話を聞きながら、

思っていたよりも厳しい状況ではなかったことに、ほっとした。

するとじわじわと目に涙が浮かびだし、慌てて下を向く。


「……橋本さん?」

「あ……すみません、私……あの……なんだかほっとしてしまって
力が抜けました」

「力が?」

「はい。契約が白紙かもしれないと聞かされて、会社を飛び出してきたはきましたが、
でも、自分では何も解決策は浮かんでいませんでした。
それでも、『BOND』のプレゼンを助けてくれた、仲間の顔が浮かんで……」


こんなことで、気持ちをふらつかせてはならないと思いながらも、

結衣は言葉が出せなくなる。


「そこまで追い込むつもりはなかったんですよ、僕は……」

「いえ……違うんです、いいんです。私、しっかりしないとって、
あらためてそう思ったので。ありがとうございました、
なんとしてもこの仕事頑張ります。二度と、誰かに渡すなんてことはしません。
『フワロン』にも、『BOND』にも、大きなプラスになるように」

更新日:2011-12-27 21:17:43

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