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6 商売の話

結衣は、何を言われるのかわからないまま、誠一郎がテーブルに置いた携帯を見た。

画面に出ていたのは、リボンを頭につけた『犬の写真』で、

その前には小さなケーキが置いてある。


「これ、『ポロン』ですよね」

「はい。昨日は『ポロン』の誕生日だったそうです。
橋本さんには連絡、なかったんですか?」

「あの……」

「あ、そうか、メール登録してないんですね、じゃぁ……」


誠一郎は、少し前に見せていた冷たい目ではなく、

『ポロン』のことを語り合ったときに見せた、優しい笑顔だった。

結衣は、この変化に気持ちが追いつかず、ひきつった笑い顔をしてしまう。


「少し、強く言い過ぎましたね、ごめんなさい」

「いえ……」

「でも、あれくらい芝居しないと、
橋本さん、本当に担当から降りそうだったからな」


誠一郎は、携帯をしまいながら、思い出し笑いなのか、

何度か口元を緩めている。


「では、ウソなんですか?」

「ウソ? いや、ウソではないですよ。あなたと仕事をしないと、
困ると思っているのは本気ですし、うちはディスカウントストアだけれど、
気持ちは安売りしてません。むしろ、安いだけで中身のない商品をつかまないよう、
人を見抜く力だけは、鍛えていると思いますが」

更新日:2011-12-27 21:17:24