• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 117 / 377 ページ

10 見えない話

暦は12月を突き進み、一段と空気は冷たくなった。

寒がりの結衣は、首にマフラーを巻き、コートをしっかり着ると、

普段と変わらない電車に乗り込み営業部へ向かう。

『おはようございます』と言いながら扉を開け、自分のデスクに向かうと、

席の周りに人の輪が出来ていた。


「おはようございます……あの、何か」


人の輪の隙間からデスクを見ると、その中に見えたのは小振りの花束と、

かわいらしいカゴに入った小瓶だった。

船橋は結衣に気づき、興奮状態でそのカゴを持ち上げる。


「橋本さん、橋本さん。やだ……もう!」

「船橋さん、おはようございます。これ、どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもないんですよ。
今、ここに『BOND』の副社長が見えたんです、スーツ姿で。
もう……素敵な方なんですね、びっくりしちゃいました」


女子社員たちは、初めて誠一郎を見た人が多く、そのスマートな立ち振る舞いに、

ディスカウントストアの副社長というイメージとは、

違った何かを感じたようだった。

シルバーに光るメガネが素敵だったと飛び跳ねるもの、

声のトーンが理想的だと目を閉じ思い出すもの、

自分がこのカゴを受け取ったとき、少しだけ指が触れたと嬉しそうに笑うもの、

それぞれが朝から興奮状態になる。

更新日:2012-01-23 21:28:58