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Turn6 狂気の実験

――遊輔視点――

「本当に観測したのか?」
「ええ。昨日、わずかにだけど時空が歪んだみたいよ」

俺と葵は珍しく外に出ていた。その理由というのが、他の世界との境界が曖昧になったことなんだが、それを信じろと言うほうが無理だ。
そもそもこの世界は他の世界との境界線は強固にできている。そう簡単に突破できるものではない。

「でも、実例はあったんでしょう?」
「そうだけどな、あの怪盗が特別だっただけだろ?精霊なんてインチキな力を持っていたせいだ」

以前にも怪盗だという男がこの世界に迷い込んできたことがあった。『銀河眼の光子竜』の精霊とか言うやつの力らしい。
同じカードは最近入部した煌石も持っているが、あいつが原因である可能性は低い。あいつのカードは精霊でないことは確認できている。だからこそ、部に入部することも認めたのだ。

まぁ、この時空の歪みの原因が何かなんて関係ない。
もし、原因が俺たちの計画の邪魔をするというのなら、この世界から消えてもらうだけである。

「で、どこで歪みを観測したんだ?」
「それが分かれば、苦労はしないわ」
「…………」
「ん?何?その目は?」
「葵はいつもそうだなぁと思っているだけだ」

あの怪盗の時もそうだった。結果、街中探しまわるはめになるんだ。

「いいじゃない。ハーレムの必要経費みたいなものでしょ」
「いや、これはハーレムの必要経費じゃねぇよ!どちらかというと、この世界そのものの維持費だ」
「ほら、ハーレムの維持費じゃない」

世界の崩壊→ハーレムの崩壊ってか?おお。俄然やる気が出てきた。俺のハーレムを荒らされて、たまるか!

「世界よりもハーレムが大事なわけ?呆れるわね」
「当然だろ?この世界は……あれだ。俺のハーレムと計画のための存在ってやつだ」
「このセリフだけだとまるで悪役ね?」

悪役でいいよ。偽善よりは幾分、マシだ。そもそもこの世界の存在意義としては別に間違ったことを言っているわけじゃない。綾小路はその辺をなかなか理解してくれないが……

「それにしても前よりもはるかに弱いのよね、歪みが。外から突き破ったっていうより、中から揺らしたって感じ」
「それで別世界の人間がここに侵入する可能性はあるのか?」
「あまりないとは思うけど……警戒するに越したことはないわね」

はぁ。面倒くさいことになった。これからは遊璃と蜜月を過ごす時間が減ってしまうじゃないか。
……でも、待てよ。

「これって計画を早めることにはならないか?」
「直接的にはならないでしょ。遊璃がキーになるなら、彼女がこの世界の秘密に気付かないと計画に進展はないわ」

ぐぅ~。否定されてしまった。遊璃、まだ、気付かないのかよ?

…………

この世界を壊される前に、計画通り動いてくれよ?
なっ、『人形』さん。

更新日:2012-01-21 11:14:23

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