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小説

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第六話 水の咆吼 Howling

「なー、なんだか倫伽ちゃん、元気なかったよなあ。」
「そおお?いつもと同じ、何考えてんかわかあんない腹グロ美少女ちゃんだったような。」
「うるせー太陰(たいおん)、おれの倫伽ちゃんを腹グロとか言うな!」
「あっらー酷いのねえ、倫伽なんかよりあたしの方がおっぱい大きいのに。」
「お前たち何の話をしている!電源確保が完了したら、時を置かずに天井作業班の護衛のはずだ。いつ敵に踏み込まれるか分からないんだぞ!」
「うへーい。」
「どうせ本隊の方に気い取られてるってば。」
「――そうして歳刑19は帰らぬ式神となりました」
「うっせばか死ねっ」
「きゃはははははは」
 ほぼ灯りのない闇の中で、何やら賑やかな声が響く。遠く長い残響を引きずる自らの声に気づいていないのか、あるいは自らの声を嵩増しして跳ね返すそれが声の主の精神状態にもやや影響するのか。ともかくもはしゃいだ、賑やかな声が、上方、つまりトンネルの天井付近と、下方の軌道敷の両方から聞こえる。
 伸縮式の足場をトンネル上部に梁のように渡し、その上には二人の人影がある。手持ち式のドリルを使って、トンネルの天井に直径一〇cmほどの穴を開けていた。コンクリートのかけらとおぼしき土塊がばらばらと軌道敷まで落ちる。
「大将軍、こっちはこれでいい?」
「ああ。いいだろう。こちらも完了だ。」
 頷いた影が、軌道敷に声をかける。
「おーい、ほら、穿孔完了したから、充填係さんさっさと充填してよ?」
「さすが豹尾(ひょうび)と大将軍、手際がいいですね。今そちらへ行きます。」
 軌道敷上から天井に向かって声をかけた者が、隣にいた別の者に話しかける。
「歳破さん、ぼくが上がったら次の爆薬を投げる役をお願いします。」
「了解だぜ。」
 その返事に頷くと、その者はコンクリートの打たれた軌道敷をとんと蹴って、片手を足場にかけると、そのままふわりと足場に乗った。架線にも触れず、さっさと作業体制に入る。軌道敷で様子を見ていた別の者が独り言のように言う。
「粘土遊びみたいで楽しいんだよねえあれ。うふふ。」
 暢気な口調で声をかけた者に、先ほど歳破と呼ばれた者が絡む。
「遊びじゃねえぞヤンデレ一緒に弾け飛べ。」
「うわひっどい。せんせー男子が歳殺(さいせつ)さんをいじめます。」
「うぜーよ太陰。オレは歳殺の方がたゆんたゆんなんだって知ってんだかr」
 歳破という何者かは、悲鳴を上げる間もなく軌道敷上に殴り倒され、後頭部を何度もレールに打ち付けられた後、無言の二人からさらに足蹴にされている。頭部や内臓のいくつかには致命的な損傷が起きているはずだ。
「歳破さん、追加の爆薬を。」
 天井から声がかかるが、応えられる状況ではない。
「黄幡(おうばん)ごめん、歳破たんは今ぼろ雑巾っつーか等身大肉骨粉袋になってるから、オレが爆薬投げるよ。いい?」
「やれやれ、歳刑さんお手数をおかけします。お願いします。」
 あらかじめ、穿孔される径に合わせて加工してある樹脂製の爆薬が、軌道敷から天井の黄幡目がけて正確に投げ上げられる。一つの穴に二本ずつ、計八本が挿入された。
「これで十分?」
「あ、そうですね、後二本ください。ギリギリまで詰め込んでみます。」
「はいっと、これでいい?オレはそろそろ歳破を助けてやらないとまずそう。」
「どうぞ、救出してやってください。」
 作業は進めつつ、一言つぶやく。
「まったく下は何をやってるのでしょうか。」
 天井に取りついている別の人影が応える。
「青春だねえ。」
「くっくっく、豹尾さん、心なくもステロタイプな述懐ありがとう。さて、充填完了です。」
「うん、起爆装置も、よしできた。大将軍ちゃん確認よろ。」
「ん?これでいい。準備完了だ。」
「ねえねえ、今日ってふだんの一六倍とかなんでしょ?粘土さん。」
 設置作業の完了に、軌道敷からも声がかかる。
「ねえ、準備できたの?」
「ああ、できたよ。追加で盛ったから未体験の一八倍ちゃんだよ。」
「うふふ、これでもけっこうなお値段するらしいわよぉこの爆薬。ねえあたし押していい?」
「だーめだってやばいってば、天井チーム降りるまで待ちなよ。」
 八人が軌道敷上に並んで天井を見上げる。
「で、どうするよ。やっぱり司令官が押すのがいいんじゃないか?」
「いやよう、あたしが押すの。ねえ太歳、それ貸してよ、うふふ、ぽち。」
「あひゃっておいおい太陰、脅かすなよ、ほんとに押したかと」
 ぴ、と細い電子音が響いて、次の瞬間トンネル内は轟音に包まれた。一番近い駅、その次の駅、さらにその次。轟音が響き、この変事に気づいた人間も当然いるはずだ。
 だが、期待されたような変化、つまり天井の崩落と、それに続く運河の水の流入は起こらなかった。
「いてててて、フェイントからのフライング起爆すんなよ太歳の馬鹿!みんなどうしてる?」

更新日:2013-12-16 01:28:06

教誨師、泥炭の上。 【第四部】