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「ふふふ、じゃないですよ。なーにがkisses and hugsだよ。この、ヒーロー気取り!バカおんな!……」
 わなわなと震えつつ悪態を吐いた結城は、一つ深呼吸すると、振り上げていたノートを長谷川に渡した。結城は表情を押し殺しているが、促されて文面に目を通した長谷川の方が、涙を堪えられなかった。
「課長。吾妻ルカより、公安サーバの全権移譲の依頼がありました。」
 課長が長谷川に目線だけで依頼の事実を確認する。長谷川が頷いた。
「承認する。済まない、結城。システムの防衛、敵の探索、頼めるか?」
「承知しました。長谷川さんにしばらくご協力いただきたいのですが。」
「うむ。どうだ長谷川君、対策技術室の方をしばらく空けられるか?」
「かまいません。室長に伝えます。」
「いや、それは自分がこれから協力を要請する。君はこのまま、結城と対応を開始してもらえるか。」
「もちろんです。」
「……二人とも、無理を言って済まない。吾妻は、必ず奪還する。」
 一度頭を下げて、課長は作戦室から出ていった。さっそく携帯電話で対策技術室長との会話を開始しつつ遠ざかっていく。辣腕でありながら細やかな配慮もできる上司、部下に頭を下げる必要などないくらい有能な課長が、苦渋に満ちた表情で頭を下げた。その心中を思うだけで、二人には反撃のための、戦う意志のようなものが溢れた。
「長谷川さん……、」
「何、舞ちゃん。」
「ルカさんが帰ってきたら、思いっきりぶん殴っちゃってもいいですよね?」
「もちろん。そのときは、あたしも混ぜてもらっていい?」
「当然です。」
「それじゃ、行こっか。」
「よろしくお願いします。」
 S班はこの日からしばらく、吾妻ルカを欠いての活動を余儀なくされた。


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(第四部第二話、終了。第三話に続きます。)

更新日:2012-03-18 15:13:03

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教誨師、泥炭の上。 【第四部】