官能小説

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野干の塚

それは五月の連休が終わった後だった。
東京中央大学の三時限目の授業の真っ最中、法学部三年の千手柱間は稲荷寿司のパックを片手に悠々とキャンパスを横切っていた。
どうやっても火曜日の三時限目は時間割に空白が出来てしまうのだった。
彼同様時間を持て余した生徒は沢山いるが、何しろ二万七千平米以上ある敷地に十一の校舎や図書館、二つの体育館、競技場等が点在する広大なキャンパスである。
知り合いに出会う事は滅多にない。
多摩の山中を切り開いて造られたこの大学は周りを鬱蒼とした林で囲まれている。
昔ここは柚木村と呼ばれていた。
柱間の先祖はこの大学が建てられるまでその村に住んでいたと言う。
柚木村だった頃の名残は大学を囲む雑木林と、その中にひっそりと佇む狐塚と呼ばれる場所である。
柱間はそこに向かっていた。
校舎から最も遠い場所にあるテニスコート場近くの林の中にそれはあった。
柱間は小さな朱い鳥居を前にしてしゃがむと祠に稲荷寿司の入ったパックをそっと供えた。
両手を合わせて無言で祈る。
この行為が本当に意味のあるものなのか、彼には実は分からない。
ただ彼は両親の教えに従ってやっているだけだ。
小さい頃から彼は時々母親に連れられてこの大学の一角にある祠にお供えをしている。
それは彼の祖先と深い繋がりがあった。
こうやってお狐様にちゃんとお参りをしないと災いが起きると両親は本当に思っている。
現代日本に生まれた柱間は神も仏も信じちゃいないし、二人の弟を亡くしたのも、単なる事故だったと思っている。
だが、両親はどの神様も信じていないくせにここのお狐様の存在だけは信じていた。
彼が大学進学を目指していた頃、この大学に入れと強く勧めたのも両親だ。
この大学に来ればいつでも狐塚にお参り出来る。
そんな馬鹿な考えに乗ったわけではない。
両親と共に住んでいる家はこの大学のすぐ隣にある火野市にある。
自転車でも来れるほど近いというのと、法学部は高レベルの大学なのである。
柱間は都内の有名進学校に進み、成績はいい方だったし、法曹界で活躍している卒業生が多いこの大学は充分受ける価値があった。
両親はここに合格した時手放しで喜んでいた。
この大学で足げしくお参りしていればお前の人生は安泰と言わんばかりだった。

「なんだかな~。」

祈る言葉など見つからない。
彼はただ母親の言いつけ通り透明なフードパックに入った稲荷寿司を供え、手を合わせるのみである。
毎週火曜日の三時限目、こうしているが、ハッキリ言って只の暇潰しに過ぎない。
さあ、終わった終わった、と立ち上がってくるりと踵を返してぎょっとした。
目の前に男が立っていた。
髪が長く、上下黒い服に身を包んでいる。
ここの学生だろうか、年は自分と同じ位。
視線を合わせると背は自分より僅かに低い。
明らかに男なのだろうが、全体的に自分より細く、何より色が白かった。

「アンタも狐塚に?」

親指で指し示しながら柱間が聞いた。
男は何も言わず黙って柱間を見つめている。

「オレは法学部三年の千手。アンタは?」
「お前と同じ、法学部三年のうちはだ。」
「え?オレと同じ?」

いくらマンモス校でも同じ学部の学生とは三年間様々な授業で顔を合わせているのだから大体覚えている。
もちろん変わった苗字であれば尚更覚えているだろう。
白い肌に目鼻立ちのはっきりした顔立ち。
右目が隠れるほど伸ばした長い前髪。
こんな特徴のある面立ちなのに、まるで覚えがない。

「まぁ、お前とは学部で顔を合わせた事はないがな。」

うちはという男が言った。

「そうだよな・・・全然授業で見かけないし・・・で、アンタこの狐塚にお参りする為に来たのか?」
「いや・・・オレは狐なんだ。」

うちはは顎で祠を指して言った。

「そこの。」

「は?」と柱間の目が丸くなる。

更新日:2014-01-30 23:06:14

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