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フィジ子さんがやって来た

ある日の朝礼――。


「今日から1週間、外来にフィジ子さんが来ています。
 実践してみたい方は、手が空いている時にでもぜひ行ってみて下さい。」

フィジ子さんとは、練習訓練のための医療用マネキンのこと。

結構高価な物らしく、150cmを超える全身モデルのその人形は、思いの外存在感を放ちながら、救急室の端の方で静かに横たわっていた。

朝礼後、私を含め数人のスタッフがフィジ子さんの元へ集まる。

「これが、フィジ子さん……。」

「こう見えてもこのフィジ子さん、凄いハイテクらしいよ。」

「へぇ~、そうなんですか?」

「うん。 心筋梗塞や脳梗塞、クモ膜下とか色々な疾患に合わせて設定して、ちゃんと脈診とか心肺の聴診とかができるんだって。」

「眼も開くんでしょ?」

「へぇ~、本当に凄いんですね。」

「でもフィジ子さん、こんなに若くて色白でスタイルも良いのに、変なジャージ着せられて、いろんな病気抱えて寝たきりなんだよ。」

「うん。 そう考えると、何だかお気の毒ですね……。」


さて、そろそろ外来診察の準備をしなくては――。

各自めいめい、その日の担当科へ戻って行く。
私たちは、朝礼に出席できなかったスタッフに告げた。

「今日からね、外来にフィジ子さんが来てるって。」

「え? “フジ子さん”って誰ですか?」

「フィジ子さんはね、心筋梗塞とかクモ膜下とか色々とね……」

「え? “フジ子さん”は心筋梗塞でクモ膜下なんですか?」

「…… そう。 だから、後で救急室に看に行ってあげてね。」



さぁて、また忙しい1日が始まる――。




※ 残念ながら私は、一度もフィジ子さんに触れる機会が無いままに、1週間が過ぎてしまいました。
   その後病棟へ行ってしまったフィジ子さんですが、今日もどこかで心肺蘇生訓練などで、大いに活躍してくれている
   ことでしょう。



更新日:2015-11-16 01:32:51

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