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問診表

「先生、たいへん長文になっていますが、要するに風邪のような症状の患者さんです。お願いします。」

「え?」

ドクターは、自分の前に置かれたカルテと問診表に目をやった。

「…なに、コレ……?」

びっしりと小さな文字で埋め尽くされたその問診表は、問診というよりはむしろ、その日の患者さんの行動記録というような内容で、家を出てから行った場所、そのルートまでが細かくご丁寧に書いてあった。

「…要するに、一日中街を歩き回って帰宅したら、ひどく疲れてその夜悪寒を感じ、次の日から熱発したということのようです。」

「…え~と、兄弟の家を出てから〇〇へ行って、〇〇を歩き……すごいな、その後カラオケ3時間したって書いてあるよ。3時間って結構長いよね。結構歌ったね。…まぁ、それだけ元気だったのにって言いたいんだろうな。きっと真面目なんだろうね、この患者さん。」

ドクターが問診表を読み上げていく。
その傍らに立つ私は…と言えば、申し訳ないけれども可笑しくて、我慢しようと思ってもついつい笑いがこぼれてしまう。

「…帰宅したら、上下の歯がガチガチいう程寒気が生じ、厚着をしてやり過ごして…あぁ、でも一時は38度以上の熱発だったんだ……。でも、問診表でこれだけ長いんだから、話を聞いたらもっと長いのかな…?」

「…どうでしょう? そうかも知れませんね。」

ドクターは、カルテを1~2ページめくり返した。

「…あぁこの患者さん、いつもこうなんだね。ほら、前回の時もいっぱい書いてあるよ。しかも、いつもお世話になっておりますって、手紙みたいに始まっているし……。」

「…………。」

もう…ダメだ……。  完全に笑いのツボにはまってしまった…。
私は必死に声を抑えながら、肩を振るわせて作業台に突っ伏してしまった。
ドクターは、そんな私を目の端にとらえながら

「面白いな、この患者さん。 会ってみたい……呼んで。」

「…はい、……お呼びします…。 〇〇さ~ん、診察室へどうぞ!」

(笑いをこらえて)頑張ってお呼びしたものの、その先はとても頑張れそうもない。私は他のスタッフに代わりに入ってもらうことにして、気分転換のために少しの間診察室を離れた。
ちょうど戻る途中、診察を終えたその患者さんと廊下ですれ違う。

「お大事に、どうぞ。」

軽く挨拶を交わし診察室に戻ってみると、代わってくれた人が終了カルテを持って出て来たところだった。

「すみませんでした。 ありがとうございました。」

私がお礼を言うと、そのスタッフも可笑しそうにしながら

「面白いね、この患者さん。 お手紙感覚なのかな、問診表が。」


次回来院される時は、いったいどんな問診表になるのだろう?
少しだけ楽しみな気もするけれど……。
でも、できるだけ外来が緩やかな時にして頂きたいものだ……。
笑いすぎて痛いお腹を押さえながら、そう思った。

 

更新日:2015-11-15 21:29:06

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