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説明と理解

患者さんの受付をして診察介助、場合によっては検査へ回ってもらい、会計へ案内する―― これが、大まかな外来業務の流れ。
そして、その内の一つに、患者さんへの検査説明というものもある。
しかし… これがなかなか大変な作業だ。

この患者さんは若いから、そんなにクドクド説明しなくても大丈夫だろうと思ってみても、その実全然理解してもらえていなかったり、
おそろしくお耳が遠い患者さんに、大音声で繰り返し説明してもなかなか伝わらず(一応説明書きも渡しはするが)、結局は半分も理解してもらえていないという、非常に残念な結果になってしまったり、
端からきちんと説明を聞いてくれさえしない患者さんもいたりする。

例えば、尿検査――。

尿検査なんて、たいした難しい検査じゃないだろう?と思われる方も多いことだろう。
しかし、これがなかなかどうして、けっこう厄介なのだ。

「トイレの一番奥に小窓がありますので、そこにお小水を採ったカップと検査伝票を添えて出して下さい。その後、小窓
 の脇にボタンがありますので、それを押して下さい。」
そう患者さんに説明しながら、採尿カップと検査伝票をお渡しするのが当院のやり方。

他の患者さんの物との取り違えを防ぐという意味もあるが、杖などの理由で手が塞がっている患者さんには、採尿カップに伝票を丸めて入れてお渡しをすることも多い。 が、しかしその結果――

その結果……そのままの状態で(カップの中に伝票が入ったまま)お小水を採られてしまったりする。
それでは…と、最初から用心して別々にお渡しをすれば、今度はカバンやポケットの中に伝票をしまわれてしまい、検査結果が余りにも出ないので調べたところ、実はまだ伝票が出されていないため検査未実施だった、ということも決して少なくはない。


そんなある日、驚くべき事態が起きた――。

いつものようにカップと伝票を渡し検査へ行ってもらう。時間がたっても結果が出ないので、また伝票かな?と思い患者さんに確認をとると、きちんと出していると言う。しかし、検査科には尿そのものが出されていない。これはいったい、どうしたことか…?
不審に思いトイレへ確認に行く。個室を一つ一つ見て回っても、それらしい物は見当たらないと思ったら――
“それ” は、あった。 とんでもない所に。

小窓の前にある『このように出して下さいね』という説明見本(見本と書いた実際の伝票と少し小さく切ったカップ)が置いてある場所に、“それ” はピッタリと、まるでパズルのピースをはめ込むかのように、寸分違わずの状態で重ね置かれていたのだ。

「…………。」



世の中とは、本当に摩訶不思議。 想像もしていないことが、引き起こされる。

そして何より、[説明]って本当に難しい。
時々自分の日本語が、そんなに分かり難いものなのかと本気で悩み、自信を失いそうになってしまう。

(あの~、私の言っている意味、分かりますか!?
 大丈夫だよね? きちんと話しているよね…?)

自問自答を繰り返しながら、また患者さんへの[説明]に、勤しんでいくとしよう。

更新日:2013-02-10 17:01:42

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