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お子ちゃまに完敗!? ③

それは、ヘルプで皮膚科の受付に入った時のこと――。


診察室では、ちょうど水イボ取りの真っ最中で、大きな声が外にまで響いていた。

「もう、しない~。 もう、おしまい~。」

処置の痛みと、抑えつけられる恐怖とで、小さな子が大泣きしている。

「もうちょっとの我慢だからね。 静かにしていてくれれば、すぐに終わるからね。」
「〇〇ちゃんはお利口さんだね~。 もうすぐだからね~。」

ドクターも介助者も、なんとか気をそらせようと、いろいろと声をかける。

「ヤ~ダ~! もう、しない~!」

「あっ、そうだ。 ママとお歌をうたおうよ! 鯉のぼりの歌。
 ねっ、お歌うたっている内にきっと終わるから。」
「鯉のぼりの歌うたえるの? 先生も聴きたいな~。」

「ヤ~ダ~!! もう、おしまい~!!」

「そんなこと言わないで。 ほら、せ~の ♪ 屋根よ~り…… 」

母親の音頭に、その子は嫌がりながらも必死の様子で、

 ♪ ……だ~か~いっ、ごいの~ぼ~り~、おおき~いっ…… ♪

歌っているのか、怒鳴っているのか、とにかくきちんと歌いあげた。
……けれど、処置はまだ終わらない。

「ヤダよ~っ!!」

「もう一回お歌うたおうか。 今度はおひなさま。 先生も聴きたいって。」

「ヤ~ダ~!!」

「ほら、せ~の……」

 ♪ …あがりをつけましょっ、ボンッボリに~っっ!! ♪

今度もやっぱり、きちんと歌ってくれた。

そんな様子を、診察室の外ではたくさんの大人たちが見守っている。
受付の私を含め、待合の患者さんたち皆が皆、ちょっと切ないような、そして本当に愛おしいというような表情を浮かべて……。


「じょうずだね~、おひなさま。
 ……よ~し、終わったよ!! はい、おしま~い!!」

ドクターのその言葉で、ようやく処置が終わった。


「偉かったね。 よく頑張ったよ! お歌も、とっても上手だったよ!!」

診察室を出て行く時、私は声をかけた。
大泣きしてまだ息が整わない女の子は、何も応えてはくれなかったけれど……。



毎日来院する小さな小さな患者さまたちは、みんなそれぞれ頑張ってくれている。

更新日:2015-11-15 22:35:26

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