• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 8 / 23 ページ

「八景島クルセイダーズ」第5話 埃まみれの弱者

「島田か・・・?」
久々過ぎる再会にどう反応すればいいのか戸惑う。かつての仲間とはいえ、遥か昔の事だ。11年前、ある出来事をきっかけに僕らは離れ離れになった。今となってはあの時感じた悔しも、やるせ無さも、中学時代の途切れ途切れで古くなった記憶の一つとして埃を被ってしまっている。
「ドランブイ、ロック。」
と由和が言うと、読書に耽っていた髭の店主が動き出した。知らない酒だが、この店には置いてあるらしい。
「元気だったか?今何をしてる。」
僕は社交辞令で由和にそう聞いた。
「そんな事はどうでもいい。」
と由和は言った。久々すぎて由和がどんな性格だったかは記憶が曖昧だが、今の由和は凄く嫌な奴に感じた。
「率直に聞く。もうメールは返したのか?」
「メール?」
「とぼけるな。ユキコのメールだ。」

・・・何だと。
こいつ何を言っている。

「待って。話が読めない。何の事だ。」
ドンッと大きな音が鳴った。
由和がテーブルを叩いたのだ。
「そのままの意味だ。お前がユキコのメールを受信しているのは知っている。」

・・・なぜ?
なぜ知っている。こいつは何を知っているんだ。

ドランブイという酒が由和の前に出される。黄色がかった、まずそうな酒だ。由和はその酒のつがれたグラスを持ち上げ、すぐさま飲み干してしまった。
「ダブルでくれ。」
再び呼びかけられた店主は席についたばかりなのに呼びかけられたからか、少し不愉快そうな表情を浮かべ、またバーカウンターにやって来た。

「さっき、オレを待ってたって・・・。どういう事だ。」
「新江古田からお前をつけて来た。今日この日が来るのを俺はずっと待ってた。」
「会社からつけてたのか!?」
「お前が今日ユキコに返信するのは分かっている。俺はそれを止める為に今日この日を待ち、お前を尾行した。」
今度はドランブイのダブルが由和の前に出される。店主は関わるまいとしているのか、グラスをカウンターに置くとそそくさとまた奥に引っ込んでしまった。
「悪いが、新宮からのメールなんて受け取ってない。第一、受け取るわけないだろ。何年前だよ。しかも、お前。新宮が殺人の容疑者になってるの知らないのか。」
そう僕が言うと、由和はこちらをものすごい剣幕で睨んで来た。由和の凄みかかった気迫は明らかに中学時代のそれを遥かに凌いでいた。
「お前、本当にユキコがそんな事できると思ってるのか?」
「え?」
「ユキコだぞ。あのユキコが殺人だぞ。ナンセンスじゃないか。」
「事実は事実だ。」
「容疑だ。まだ事実じゃない。」
僕には由和の言いたい事がよく理解出来なかった。警察を疑ってるのか?バカバカしい。
「10年も経てば人は変わるだろ。」
「お前も変わったな。」
「はぁ?」
そう言ったまま、由和は黙って酒を飲みはじめた。空気の重さに耐えかね、僕も目の前の氷の溶けかかったモスコミュールに手を伸ばす。喉が渇いていたが、モスコミュールを口にいれても、変わらなかった。
「約束・・・覚えてるか?」
由和は一息ついたようにボソッとそう呟いた。
「約束?」
「11年前、お前が破った約束だ。」
「覚えてない。」
正確には、なにかしらの約束をした事は覚えていた。その関係で僕らが離れ離れになった事も。だが、約束の内容までは覚えてない。どうせ中学時代の事だ。他愛ない内容だろう。
「そうか・・・。」
再び、沈黙が訪れる。
疲れを癒しに酒を飲みに来たのに、これでは台無しだ。お金を返して欲しい気分だった。
「頼む。メールを見せてくれ。」
「だからオレは・・・。」
「10年前のユキコからメールが来てるはずだ。それしかあいつを取り戻す手段が無いんだ。」
由和が言い放ったその言葉にさすがに僕は動揺した。少なくとも由和は明らかに何かあのメールの謎に関する事を知っていた。

更新日:2011-10-22 10:53:39