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なんなんだ突然・・・。
ここ数日、突然の出来事が多すぎる。新宮の殺人、島田の死、町田からの連絡・・・。
そのどれもが中学時代の仲間たちだった。『何かグルになって仕組まれているのか?』とさえ考えられるほど、出来過ぎた状況だ。
さらに携帯だ。
なぜこの携帯は今、僕の手元にあるんだ。
「突然なんだけど、お前、ニュース見たか?」
島田のことだろう。
「あぁ。見た。」
僕はそう返事をしながら火を付けっぱなしにしていることを思い出し、急いで台所に戻り、フライパンの火を止めた。
再び水道の蛇口を捻り、コップに注ぐ。いつの間にか喉がカラカラに渇いていた。
「そっか。なら話が早いわ。今日、通夜があるらしいんだわ」
「通夜?」
そうか。島田のか。
「うん。お前今、どこに住んでる?」
「実家にいる。会社入ってから帰ってきた。」
「え!本当かよ!?なんだ、言ってくれよ。知らないし!水臭いなぁ。俺もまだ実家だよ。」
「いや、連絡するのも悪いかなと思って。」
「何言ってんだよ。昔からの仲だろ?」
町田とは小学校からの同級生だった。町田の実家は僕の家から歩いて10分くらいの距離にある。よく言えば、幼馴染だった。
「お前、行くだろ?」
「いや・・・オレは。」
「まさかまだ根に持ってんのか?」
「違うよ。そんなんじゃない。」
「最後くらい許してやれよ。」
「え?」
・・・許す?
なんだ?なんのことだ?
「もう過ぎたことじゃないか。今となってはこんな事になっちゃったんだし・・・。ユキコがあんな事するなんて本当にまだ信じられないけど。」
「はぁ?」
思わず、阿呆みたいな声を出してしまった。町田は一体なんの事を言っているのだろう。
「とにかく今からお前んち行くわ。今日休みだろ?支度しとけよ。」
そう言って町田は一方的に電話を切ってしまった。
通話の途絶えた携帯電話を呆然と眺める。ツーツーという音が小さく鳴っていた。
キツネにつままれた様とはこの事だろうか。異常な出来事がこうも畳み掛けてくると、もうただ呆然とするしかなかった。
・・・何がどうなってるんだ。
町田が言っていた『許す』とはなんだ?
僕が島田に対して許せない事があるとしたら、つい昨日の横暴ぶりくらいだ。
そして、1番の謎はやはりこの手元にある携帯だ。
昨日の事は夢だったのだろうか。僕は本当は金沢文庫のバーにも寄っていないし、島田にも会ってないし、携帯も奪われて無いのではなかろうか。
でも、タクシーの領収書は確かに財布の中にあったし、スーツにはまだ昨日ついた埃が残っていた。
間違いない。
間違いなく僕は昨日、島田に出会い、携帯を奪われた。
しかし、その携帯は今、僕の手元にある。
僕はとにかく心を落ち着かせるべく、冷めたパンに冷たい目玉焼きとハムを挟み、むしゃむしゃと食べ始めた。
とにかく島田の通夜に行ってみよう。それで、何か分かるかもしれない。
ドアからチャイムの音がした。町田だろう。さすがに到着が早い。本当に近所なのだ。
僕は急いで玄関に向かい、ドアを開け、町田を家に迎え入れた。
町田はすでに喪服に身を包み、短髪を整え、利発そうな表情でメガネをかけていた。
町田と久々の再会を果たし、ある程度の積もる話をした後、僕は一昨日の深夜のメールから始まる今までの出来事を勇気を出して、洗いざらい話すことにした。
不安だったのだろう。
誰かに聞いて欲しかった。
また、僕らのリーダー的存在だった町田ならふざけず、真面目に聞いてくれるだろうという安心感もあった。
社会に出て、すっかり無口になった僕はその時、異常なまでに今までの出来事について饒舌に語った。
誰かに聞いて欲しかった。
完全に混乱しきっていた。
緊張の糸が一気にほぐれたかの様に僕は話し続けた。
すこし涙目にもなっていたかもしれない。とにかくこの異常事態の連続は一人で考えるには許容範囲を超えていた。
町田はずっと、ただ静かに聞いていてくれた。時々、頷いたり質問したりはしつつも、あくまでも聞き手に徹してくれた。
そして、僕が一通り話し終えた後に、一言、
「あとでもう少し細かく聞こう。何が嫌な予感がする。何か・・・すごく壮絶な。」
とゆっくりとした口調で語り、僕の背中を撫でてくれた。
「とにかく由和のところに行こう。」
「あぁ。」
「それと・・・。」
町田は立ち上がりながら、何か言いかけた。
「なんだ。」
そう僕が座り込んだまま聞こうとすると、その言葉にかぶせる様に、でもあくまで優しい声で
「オレの名前は・・・
『卓ちゃん』だろ?ナオヤ。」
と言いながら、僕に手を差し伸べた。
この歳で恥ずかしくなるが、
久々に泣きそうになった。
目の前の男は確かに、変わらず、昔のままの、頼れる存在。
僕の幼馴染で、
我らがリーダー。
八景中学剣道部「策謀の卓」
卓ちゃんだった・・・。
更新日:2011-11-02 20:43:27