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「八景島クルセイダーズ」 第6話 破られた約束

夜の海の公園はちょっぴり淋しいです。
毎年、八月の末には花火大会で大騒ぎなのに、普段の夜といったらしーんと静まりかえって怖いくらいです。
女の子1人で行くなんていったらヒヤヒヤしてしまいます。
『ナオヤを誘って良かった』と改めて思いました。
ナオヤは海の公園に向かう道中ずっと黙ったまんまでした。
ナオヤの気持ちはなんとなく分かってました。私もバカではありません。でも、ナオヤの気持ちに応えるわけにはいきません。私たちは関東大会予選を控えていましたし、高校受験もあります。
それに自分の気持ちもまだ整理できてませんでした。ナオヤの事は好きだけど、由くんや剣道部のみんなも大好きなのです。
みんなの中から特別な1人を選ぶ必要があるのでしょうか。みんなでずっと一緒にいたい。それが私のささやかな願いでした。
海の方からは潮の香りがし、波の音が微かに聴こえてきました。駐車場を抜け、木々が生い茂る小さな林(ピクニックにはもってこいなのです。)を抜けるて海に出ます。
「ナオヤ、やっぱり星陵いくの?」
駐車場が見えて来たところで、沈黙に耐えかねた私はそう話しかけました。
星陵高校は東京にある剣道の名門校でナオヤには推薦入学の話がありました。
「受験したくないしね。」
とナオヤ。
「そっか・・・。」
と私。
私はみんなで同じ高校に行きたかったのです。卓ちゃんやポッチョは金沢高校という区立の高校に行くつもりらしく、私もみんなと一緒に金高に行きたいと思ってました。ナオヤと由くんも一緒に。
「高校に行ったらみんなバラバラかなぁ。」
私はナオヤの顔色を伺いながら聞きました。ちょっと意地悪な質問です。でもナオヤは顔色一つ変えず、
「地元は一緒だから大丈夫だよ。」
と言いました。ナオヤの決意は固いのです。知っていました。
「そうだね。そうだよね。」
「・・・。」
私たちの間に再び沈黙が訪れました。今夜のナオヤとの会話は長続きしません。やれやれなのです。
林を抜けて、砂浜に出ました。
夜空には満天の星・・・とまでは言えませんが、キレイな星空。海の向こうにはイルミネーションの消えた八景島シーパラダイスがぼんやりと見えます。
海は静かに波をたて、潮風が頬に心地よくあたります。
私は両手を上に挙げ、うーっんと伸びをしました。ナオヤは波打ち際でシーパラダイスの方向を眺め、相変わらずだんまりです。
「明日で終わりだね。合宿。」
私は伸びを終え、ナオヤに近づきます。でも、ナオヤは無言。
「関東大会行けるといいね。行けるよね?今のうちらなら。」
「ユキコ・・・。」
ふとナオヤが口を開きました。

『来た。』と私は思いました。

「オレのこと・・・どう思ってる?」
ナオヤは少し震えてるように見えますした。張り詰めた空気に思わず身構えてしまいます。私はなるべくナオヤを傷つけず、今まで通りの関係でいられる言葉を探します。
とびきりの笑顔を作り、
「なに突然。ナオヤらしくないね。好きだよ!みんな大好き。」
「そっか・・・。」

会話が途切れました。私は「みんな大好き」という言葉でナオヤを牽制し、会話を終わらせました。少なからずナオヤを傷つけたと思います。ナオヤは黙って俯いていました。
長い沈黙の中、波の音だけが静かにで聴こえていました。
2人でぼんやりと海を眺めます。

・・・多分、私はナオヤが好きでした。
おそらく特別に。

「帰ろっか!」
私は目一杯の元気さを見せ、海を眺めるナオヤの目を覗き込みました。
すると突然、ナオヤの両手が私の背中にまわったかと思うや否や、強い力で抱き寄せられ、口唇に温かい感触を感じました。

・・・あまりに一瞬の出来事でした。
その突然の出来事に、我慢していた私の心のダムは決壊してしまいました。私はナオヤの口唇を受けとめ、思いっきりナオヤに身を寄せます。
やっぱり好きなのです。私はナオヤが好きでした。
身を寄せるナオヤの体からはドキドキと心臓の音が聞こえ、波の音なんて全く聞こえません。ナオヤの口唇は不器用なようで優しく、温かくもありました。どれくらいの時が経ったでしょう。きっと数秒だったのでしょうが、私には時間が止まってしまったように感じられました。

・・・でも、やっぱりいけなかったのです。

少なくとも、この日この場所では私は我慢しなくてはいけなかったのです。

更新日:2011-11-02 20:40:14