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・・・君との出会い・・・


君と出会ったのは、今から10年前だったね
前妻が駆け落ちで男と出て行ってから、私は人を信じられなくなっていた。
一生懸命に働いていたのにって、何が悪かったのか・・それを考えた。
だけど、何も浮かばないくらいに私は必死に自宅と会社を往復していたんだ。
結局、ひとり取り残されたあの時の自分を想うと、何も出来ないものなんだと痛感したものだよ。
あの時は、ほんとうに困っていた。

毎日毎日荒れまくって飲み屋を梯子していた。そんな時だった。君に出会ったのは・・・

酔って、ふらふらの状態で道端の堀に吐いたものを眺めながら、定まらない目線が回るのを感じ、そこで屈み込んでいた。
「大丈夫ですか?」
そのときだった。
君が声を掛けてくれたのは・・・。
正直、女神様に見えたよ。

君は、あんな酔っ払いの背中をさすってくれて介抱してくれたんだね

ただの酔っ払い・・・怖かっただろうに。
「すみません・・」それを言うのに精一杯だったよ。
そして、君は近くの自販機で水を買ってきてくれて私に渡してくれた。
手がうまく使えなかった私から、また、缶を受け取り蓋を開けてくれた。
そして、タクシーを停めて送ってくれたんだよね

ありがたかったよ
自宅に降りるとき一万円札を君に渡そうとしたのに受け取らなかった。
だから、運転手さんに渡して「おつりは女性にお願いします」と言って私は玄関に向かってよたよたと歩いた。 きっとそうだったと思う。
君は、私を追いかけ直ぐに降りてきた。

私の腕を自分の肩にまわすとしっかりした足取りで支えた。
玄関の鍵をポケットに手を突っ込んで探していたときも、「すみません。失礼します」と言ってポケットから見つけてくれてドアを開けてくれた。
そして、私が玄関の中に入るのを見届けてから君は帰ったんだ。

あの後、君はどうしたのかな
どうして、名前を聞かなかったのかな
私の頭の中は自分のことだけだった。

結局、私は朝まで靴を履いたまま板の間で眠っていた。
少し寒いのに気付いて目が覚めた。

君の顔がちらついたが夢なのか現実なのか区別がつかない。
少しの間、私はぼーっとしてそこに固まっていたよ。
それから、靴をそこに抜くと部屋に上がっていった。


更新日:2011-10-18 06:51:10

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