• 29 / 1371 ページ

コンプレックス

「ユ、ユウさんっ、この格好でお出かけになられるのですか!?」
僕が支度を整えてリビングに入った途端、京介か目を剥いて尋ねてきた。
「そうだよ。なんかおかしい?」
普通のジーンズとTシャツなんだけど。と、僕は自分の格好を見て言った。
クラシック・ローズと和服一辺倒の京介とは違い、僕は安い服だったり、変わった
服も着る。
「挑戦的すぎます!」
「そうかなあ」
友達がセレクトしてくれたんだけとな。と、僕は自分の格好を見下ろした。
「一体、私以外のどなたに腰に手を回させるおつもりですか!」
「はあ!?」
京介かなにを言っているのかそっぱり僕にはわからない。僕が首を捻っていると
京介は立ち上がり、僕の目の前までくると、腰に両手を回して、腰骨の辺りを
さわりとなぞった。
「な、なにするんだよっ」
「こういう服でしょう。決して屈まないでください・このままでは私にだけに
許されたユウさんの美しい臀部がちらりと見えてしまう危険が多大にあります。
即刻、お着替えになられることをお勧めします!ええ、今すぐ!」
「で、臀部って・・・!」
確かにヒップハングだけど。試着したら、店員さんか゜「こっちの方が足が長く
見えますよ~」って言うから、その通りに買っただけなんだけど!
僕は京介より約30センチも背が低いわけで!昔から、背が低いことがコンプレックス
だったから、どうしても「足が長く見える」とか「背が高く見える」とか、そういう
言葉に無意味に弱いだけで!
「京介っ!触るなよっ。で、出かけられなくなったらどうするんだよっ!」
「そう願っているに決まっているでしょう!」
京介はいかにも、わざとらしいという手つきで僕の臀部を撫で回していた。僕は
その手の甲を慌てて摘み上げると、京介の胸に押し返して
「なぜ、カイトとか言う男に会いに行くのにそんな挑戦的に格好でなくてはならない
のですか。ユウさん、もしや・・・」
「あのねえ、何度も言うけれど、僕はカイトにそんな感情はこれっぽっちも持って
いないのっ!」
「なら、なぜ!いえ、ユウさんが思い描くことも私には耐えられるような出来事では
ありません。即刻、削除してください!」
「思い描いてないよっ!勝手に決め付けるなっ!もうっ!いいかげんにしないと怒るぞ」
僕は両手ごと、京介に突っ返し、威張って言った。これが、女性アーティストだったり、
京介より劣る(というか京介より美貌で上回る男が地球に存在するのか疑問だけど)
だっりたしたら許せていたのだろうか。
「じゃあさ、今度一緒にカイトのライヴに行こうよ。そうしたら彼の魅力がわかると
思うからさ。チケットは僕が手配するし」
「行きません!だいたいなんですか、彼の魅力というのは!」
「きみにはわからないよ」
実際にステージを見てもしないのだけもの。音の悪いインディーズのCDで聞いている
だけなんだし。
僕が言い淀むと、京介は目に怒りの炎を燃やし、僕の手をガッチリと掴んだ。
「ユウさん、私を愛してくださるのだったら行かないでください」
「なんだよ、それ、もう・・・」
「あのセックスの塊のような男にユウさんが今夜、どのような痴態を見せるのかと
思うと、死んだほうがマシです!」
「見せないよっ!そんなものっ!」
誰がそんなものきみ以外に見せるもんか!
「でしたら、どうして臀部を見せるような格好をされるのです!挑発している他に
理由があるならおっしゃってください!私が納得するように!」
「それは・・・」
足が長い見えるから、とか、背が高く見えるように、とか、そんな僕が中学生のときから 抱えてきたコンプレックスを!そんなこと気にもしたことが生涯で一度もしたことがない ように京介に言えって言うのかい!
僕は言えないという理不尽な理由で立腹した。もちろん一瞬で消えるものだったけど。
京介の手を振りほどき、
「そんなこと絶対に言えるもんかっ!きみだけには絶対にっ」
と、きつい口調で言い放って、そのまま皮のウエストポーチを手にとって家を飛び出して しまった。

更新日:2009-01-10 22:19:11

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook