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小説

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炎天下

「ユウさん!帽子をお忘れですよ!」
いってきまーす、と玄関で声を出したところに、京介の
「待った」がかかって、僕は靴を履いて玄関で立ち止まった。
行き先は近くの本屋。
京介も一緒に行きたがったけれど、本日の気温32度。かんかん
照りの太陽の日差しの中を、歩くなんて行為は日焼けご法度の彼にと
ってはまったくもって罪に等しい行為なわけだ。
「熱中症で倒れる前に、具合が悪いと思われたらすぐに涼しい
ところに避難をして、塩分と水分をお取りになってください」
「はいはい」
まるで戦地に赴く戦士を見送っている。みたいな悲壮な眼で見
られても外出は避けることが出来ないわけで。
「やはり・・・!ええ、私の審美眼は確かだと断言せざるを得ない
ですね。とてもお似合いです!」
「ありがと。ねえ、この帽子ぴったりなんだけど」
「ええ。なにか?」
「この横についているお花、取り外してもらいたいんだけど。
女の子用だろ、これ」
「色と柄と形が豊富なのは、残念ながら女性向けの方が多いで
すからね。
私のユウさんには通り一遍、面白みもデザイン性も機能性にも
欠けたウインドーに飾っているような帽子は似合わないと思ったまで
で他意は決してありません」
「それはわかったから。お花取って」
「わかりました。少しお待ちください」
安全ピンで留められているお花はご丁寧にも刺繍なのかな?編
み物なのかな。ずいぶんと凝ったデザインがしてあった。
「取れた?」
「・・・・・」
帽子にかかっていた京介の手が、ふと離れたから、僕は視線を
あげて聞いてみた。
「物足りませんね・・・」
「なにが?」
京介は安全ピンをしっかりと留めた刺繍だか編み物だかのお花と、
僕の帽子に視線を交互に投げかけて、ぼそりと呟いた。
「やはり必要ですよ、このお花は」
「いらないよっ」
「とても似合っておいでですよ!お花を取ってしまうと平凡な
帽子になってしまい、ユウさんを彩る気配がさっぱりなくなってしま
います。それぐらい重要です」
「お花つけるぐらいだったら帽子被らない!」
「なんて我侭をおっしゃるのですか!この炎天下に帽子も日傘
もなしで歩かれるなどと!自殺行為ですよ!」
我侭か!?僕は一瞬だけ唖然とし、まだお花にこだわろうとす
る京介の手からそれを取り上げると、
「きみの方が似合うからっ」
バレーボールのアタックの要領で飛び上がり、ふわふわとした
京介の頭の上に着地させた。
びっくりしたのか眼を丸くさせた京介が、言葉を無くした隙を
ついて、僕は駆け足で玄関を出た。

やっぱり、あんまり外は暑かったものだから、途中の喫茶店で
一人でカキ氷食べてきた。って報告したら、またムクれられた。
とことん少しずつズレている日。

更新日:2009-01-10 22:08:38