• 56 / 57 ページ

bitter or sweet(ポッキーの日SS)

「ただいま。」

ミコトが買い物から帰って来た。

「おかえりなさい。」
「イタチがサスケの面倒を見ててくれるからお母さん助かるわぁ。」

そう言ってミコトは買い物袋を畳の上に下ろした。

「これ、お留守番のお礼ね。」

ミコトはエコバッグの中からポッキーの箱を取り出した。

「サスケは?」
「今かくれんぼをしてて・・・。」
「にーたん!」

襖が開いてまだ一歳のサスケが顔を出した。

「にーたん、いた!」
「あらあら良い事、イタチとかくれんぼしてたの?」
「かーたん、いた!」
「はいはい、帰ってきましたよ。」

おむつをしているお尻でよちよちと歩いて来てサスケが買い物袋の中を覗き込む。
ミコトはサスケには赤ちゃん用のえびせんべいを買って来ていた。

「これ、サスケのおやつね。」
「おやちゅおやちゅ。」
「おにいちゃんと一緒に食べましょうね。」

ミコトは立ち上がり、買い物袋を持って台所に向かった。
イタチはサスケの小さな手を引き、その後について行った。
ミコトはひよこの絵の小さなお皿に薄いせんべいを置き、白い陶器の皿にはポッキーをザラっと開けて出した。
ミコトの方針でサスケにはチョコレートと飴は与えないようにしている。
こんなに小さいうちから虫歯が出来たら可哀想だからだ。
イタチだって三歳位までそうしていた。
おかげで六歳になった今でも虫歯は一本も出来た事がない。
だがこんなに小さくても人の食べているおやつが美味しそうなのは分かるものである。
イタチがポッキーをポリポリと食べるのをサスケはじーっと見つめる。
やがて自分のおやつを放り出してイタチの前に行き、むっちりした小さな手を伸ばして来た。

「サスケ、これはにいちゃんのだからな。」
「にーたんの?」
「そうよ~、サスケ。それはイタチのポッキーなの。でも苦々なのよ。」

ミコトが助け船を出した。

「にがにが?」
「そうよ~。」

サスケはうえぇ、と不味そうな顔になった。
大人と同じメニューを食べられるようになったサスケだが、流石に苦い味は苦手である。
先日フガクが畳の上にこぼしてしまった仁丹を目ざとく拾い食いした時、「苦い」味を覚えたサスケであった。

「にーたん、ぽっちー、にがにが?」
「ああ、そうだぞ、サスケ。にがにがだ。」

それでもイタチが食べている細長い棒を興味深々な目で見ていたサスケは、ついにはイタチの膝によじ登り始めた。

「サスケ!」

イタチが皿を持ち上げてお菓子をサスケから遠ざける。

「にーたん、あ~んしゅゆ。」
「ああ、ダメよ、サスケ。」
「に~たん、あ~んしゅゆの!」
「大丈夫ですよ。」

サスケの言わんとしている事が分かったイタチが母に言った。

「はい、サスケ、にーたんに食べさせてくれるんだよな。」

イタチがサスケにポッキーを手渡す。

「にーたん、あ~ん。」

小さな手に握られたポッキーがイタチに向かって差し出された。

「あむ。」

イタチはポッキーを口に入れるとポリポリと軽快な音を立てて噛み砕いた。

「にーたん、ぽっちー、にがにが?」
「うん、にがにがだなぁ。じゃあ口直しにサスケを食べちゃおうかなぁ。」

そう言ってイタチはサスケのぷっくりとしたほっぺたにぶっちゅ~とキスをした。

「ん~、サスケのほっぺたは甘いな~、おいし~。」

そう言ってイタチはちゅっちゅっちゅ、とサスケのりんごのようなほっぺたにくまなくキスをした。

「うひゃひゃひゃひゃ・・・。」

くすぐったいのかサスケが嬉しそうに笑い出した。
ひとしきり笑った後、

「にーたん、ぽっちー、にがにが?」

またも同じ質問を繰り返すサスケ。
イタチはまたポッキーをサスケに持たせる。

「うん、あ~ん。」
「あ~ん。」

しばしポッキーを味わうイタチ。

「ああ~、にがにがだ~、サスケのほっぺた頂きま~す。」
「きゃ~!」
「サスケのほっぺたはあま~いおいし~。」
「うひゃひゃひゃひゃ・・・。」

さんざん笑った後、嬉し過ぎてエヘエヘエヘ、と笑いながらサスケが聞く。

「にーたん、ぽっちー、にがにがぁ?」
「うん、にがにがだぁ!」

もはやポッキー抜きでむちゅう~、とキスを繰り返すイタチにきゃあきゃあと笑うサスケ。
二人の兄弟は飽きるまでそれを繰り返していた。


おわり

更新日:2013-11-11 17:28:35

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook