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藤崎さんがぱったりとお店に来なくなったのと
深夜に酷い酔っ払いに絡まれて大変な思いをしたのは
ちょうど同じ時期だった。

その日は私と中村陸の二人で店にいた。

何が気に食わなかったのか
泥酔していた40代くらいの男性は
店に入ってくるなり突然、私に暴言の嵐を浴びせた。

「だいたいお前みたいなオンナがなぁ
こんな時間に仕事したきゃ風俗に行けっつーんだ!
金払ってやるから今からやらせろよ。
そういうつもりで夜働いてんだろ?」

オッサンはそう言うと
カウンターに3万円出して
ニヤリと笑った。

泥酔していても何か買ってしまえば客は客だ、と
こっちも下手に出ていたら
そんな言葉に止めを刺されて
言葉を失ってしまった。

私は3万円の価値しかないのか。

悔しくて、腹が立って
平常心ではいられなかった。

何か言ってやりたいのに言葉が出てこなくて
唇を震えていると
私とオッサンの間に中村陸が入った。

「これ以上騒ぎが大きくなるようでしたら
営業妨害ということで警察を呼ぶことにもなりかねませんが
それでもよろしいでしょうか?」

中村陸はオッサンがカウンターに置いた3万円を手に取り
オッサンへと突き返す。

冷静な、それでいて丁寧な中村陸の言葉に
オッサンは「お前みたいな若いヤツに何が分かる!」と掴みかかりかけたが
泥酔していても”警察”は怖かったようで
唾を吐いて早足で店から出て行ってしまった。

オッサンの姿が見えなくなった途端
腰が砕けてしまったかのように
私はへなへなと床に座り込んでしまった。

「しっ椎奈さん?!」

更新日:2011-09-26 16:58:39

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