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 家に帰ると相変わらずの惨状だった。
 家に入った瞬間アイドルの曲が俺の耳に入る。これが朝から晩まで続くので本当に鬱陶しい。
 靴を脱いで直ぐの所で兄弟に声をかけられる。
「あ、兄ちゃんおかえり」
「お………おう」
 目の前にいるのは赤と黒のストライプのスカートを穿き、白いロングの鬘を被っている。そしてキャミソールを着ている女の子…………では無く男の子の蓮見光河。現在小学四年生である。
「兄ちゃん、この服似合っているかな?」
「あ………ああ」
 凄く似合っている。実際には似合ってはいけないんだがな。性別的に。
 光河は化粧無しで女の子のような顔をしている。だからまさに女の子の姿だった。声は高く華奢な体つきなので元々女装の素質がある訳だ。
 だがそれがどした? 男なのだ、彼女は……いや、彼は。
「兄ちゃん、次はどんな服を着て欲しい?」
 ゴスロリか………純白のワンピース……それかミニスカート……
「止めろ。忠告するがお前は弟。決して妹では無い」
 いかん、いかん、自分の理性が吹っ飛びそうだった。
「むう………兄ちゃん……」
 光河はアヒル口にする。可愛い………では無い! 何を考えているんだ、俺は! この場合はロリコンになるのか? 男だからショタコン? でも………女装趣味の男ならロショコン? 
「っていうか兄ちゃん最近浮かれてるよね? どうしたの?」
「何を言っている光河! 俺は一%、いや、百分の一%も浮かれてなどいない」
「ふうん………」
「ははは、光河、いい加減女装趣味を止めることを思慮するんだな」
 自分のキャラに合っていないことを口にし、その場を立ち去り自分の部屋に入ろうとすると光河に呼び止められる。
「ねえ兄ちゃん」
「どした光河?」
「夏休み暇だからどっか連れて行ってよぉ」
 おねだり口調で言ってくる妹………では無く弟。
「時間が出来たら……」
「むう……」
 弟はつまらなさそうに俺を見る。
 俺はそう言って弟に背を向けた。この時の俺は、まさかあんな事態になるとは少しも思わなかった。

 
 ジリジリジリジリジリジリジリジリジリリリリン――――
「ん………熱い~………眠い~……って今日はプールの日じゃねえか」
 今日は八月一日。御月と仔那珂と一緒にプールで泳ぎに行く日である。
 勢いよく起き上がり目覚まし時計を見る。時間は九時二十分。集合時間は十時なのでゆっくりする時間は無い。水着は昨日荷物に入れて準備している。財布の中身も少なくはない。
「よしっ、いざプールへ!」
 速攻でパジャマから普段着を着て荷物を持つ。そしてドタドタと階段を下りて適当な菓子パンを口に入れて俺は家を飛び出した。
 家を出た後、俺は玄関近くに置いているマイ自転車に跨りペダルを漕ぐ。そして荷物が自転車の籠に入らないので俺は荷物を背中に掛ける。
「うおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉ――――――――――――――――!」
 八月一日は真夏。太陽が燦燦と輝き俺の体力をじわじわと減らしていく。
 急がないと電車に間に合わない! ダッシュ、ダッシュ、ダッシュ、ダッシュ―――。
 神奈川の電車は東京よりも数が少ない。と言っても田舎にくらべたら随分数が多く首都とほぼ変わらない。しかし、その一分、二分の違いが遅刻を招く結果となるのだ。
 だから俺はペダルを思い切り回す。少しでも緩めてしまったら女子が俺を待つことになってしまうからな。それは恥ずかしすぎる。

更新日:2011-09-20 04:56:21

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