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一章 『君を迎えに』(仮)
今日も良く晴れた朝だった。
青空の下の騒がしい商店街の中では、見知った顔を何度も見かける。
その騒がしい通りを、彼女は食材の入った紙袋を抱え、ぼんやりと空を眺めていた。
といっても、少し歩くだけでかかる声にはしっかりと返している。
「…なんか楽しい事無いかなぁ」
別に無い訳じゃない。
近所の子供達の相手するのも、隣町の図書館まで行って勉強するのも、祖父から剣の稽古を受けるのも。
全て楽しくない訳じゃ無いけれど、それでも日々に代わり映えはしなかった。
だけども、そこまで欲しいとは思っていなかったようで、鼻歌交じりにスキップで次の店へと向かう。
「今日は何にしようかなぁ。小母さん、今日のオススメってなぁに?」
「そうさねぇ、今日はコイツかね?」
「へぇ。じゃあ、それ二つと…いつもの奴と、後はあそこのアレも五つ欲しいな」
「はいよ。お代は832カミュになります、と。…今日もお使い、ご苦労様だね」
親しげに進められていく日常会話。
世間話も二言三言交えながら、支払いを終えると、店の女主人との会話は終わる。
すぐさま次の店へ向かおうとすると、ここでは珍しい、聞き慣れない声に呼び止められる。
「お嬢ちゃん、ちょっといいかな?」
振り返ると、そこにはやはり見たことの無い目深にフードを被った人がいた。
真夏の晴天の中話し掛けて来たその人は、季節柄珍しく、マントをしっかり上から下まで羽織っていた。
…パッと見、怪しくもある。
だけど、この街では旅人なんてそう珍しい事無いし、さらに種族によっては日焼け対策の可能性もある。
彼女は愛想笑いをすると、なるべく丁寧に答えた。
「なんでしょうか?」
なんだろう、また道を尋ねる人だろうか。
等と彼女が考えていると、次に出て来た言葉はその人を更に怪しくした。
「お嬢ちゃんは…ハレエナさん、かな?」
「…!…だったら、なんですか?」
彼女、ハレエナ・エシティエンス。
同じ名前の人は…彼女の知る限り、ここらには居なかった。はず。
とりあえず、警戒をする。
「…お願いがあってね。」
「お願い?何故あたしなんですか?」
警戒の様子を見てか、その人はうろたえたように少し後ずさる。
「…ついてきて来て欲しい。」
そうボソッと呟くと、その人はいきなり腕を取り走り出した。
やっぱり怪しい人だ!!
つかヤバい人!!
そう思いつつも、手を引かれた驚きからか声は出なかった。
そのまま、路地裏を無作為に縫うように走り回る。
「っ…く、離して下さいっ!」
しばらく路地を突き進んだ所で、ハレエナは手を振り払う。
急に止まったせいで、紙袋の上の方に入れてあった林檎が二つほど、ゴロンと落ちてしまった。
「なんなんですか!?いい加減にしないと警備員さん呼びますよ!!」
吐き捨てる様に言うと、その人はそんな事聞いていないかのように言う。
「危ない!!」
「へ?」
不意に、何処からともなく出した杖によってハレエナは横に薙ぎ払われる。
「きゃ…?…あぐっ!!」
そのまま隣の壁に当たる。
紙袋の中身は完全に辺りに散らばってしまっていた。
それでもなんとか目を開けると、そこには一本の槍が。
それが刺さっているのは、先程までハレエナが立っていた少し先、怪しい人がいる所。
つまりハレエナへ向けられていた。
「今回は早いお出ましだね…」
まるで悔しそうな声で怪しい人は言う。
その声の先は勿論ハレエナでは無く、これまた見知らぬ男二人組が立っていた。
「せっかく、我々が成功したというのに、まだ貴女は足掻くとおっしゃるらしいですからね。」
「…おら、早く捕らえろよ馬鹿…」
「なっ…!?ダグネス、貴方…仮にも兄である私に向かってなんて暴言…!!」
「…チッ、ほら逃げた」
男達の片割れが指した先には、フードを被ったマントの人も、ハレエナの姿もなかった。
「キィーーっ!貴方のせいですよダグネスぅぅうッ!!」
「…なんでだよグランツェのせいだろ…」
細かく入り組んだ路地を、二人は隠れる様に進んでいた。
「あ、あのっ!あの二人は誰なんですかぁ!?なんであたしに槍なんかっ!!」
手を引かれながら、前を行く怪しい人(もっとヘンな人居たけど)に尋ねる。
「…あいつ等には気をつけて。それと、静かに。何処か隠れられる場所は?」
「え、ちょっと先にあたしの家が…」
「わかった。」
それだけ言うと、手を引きながらその人は更に素早く走り出した。
「こ、こけるっ!」
そう主張してみても、返事は無い。
…聞こえているのか、聞いていないのかはよく分からない。
などとしてるうちにハレエナの家に着く。
そこ、と言う間もなく手を引かれ家の門の陰へ隠れる。
…なんだか、ここが目的地だと知っていたような。そんな迷いの無い動きだった。
数分も経たないうちに、目の前を走り抜ける足音が幾つか聞こえる。
青空の下の騒がしい商店街の中では、見知った顔を何度も見かける。
その騒がしい通りを、彼女は食材の入った紙袋を抱え、ぼんやりと空を眺めていた。
といっても、少し歩くだけでかかる声にはしっかりと返している。
「…なんか楽しい事無いかなぁ」
別に無い訳じゃない。
近所の子供達の相手するのも、隣町の図書館まで行って勉強するのも、祖父から剣の稽古を受けるのも。
全て楽しくない訳じゃ無いけれど、それでも日々に代わり映えはしなかった。
だけども、そこまで欲しいとは思っていなかったようで、鼻歌交じりにスキップで次の店へと向かう。
「今日は何にしようかなぁ。小母さん、今日のオススメってなぁに?」
「そうさねぇ、今日はコイツかね?」
「へぇ。じゃあ、それ二つと…いつもの奴と、後はあそこのアレも五つ欲しいな」
「はいよ。お代は832カミュになります、と。…今日もお使い、ご苦労様だね」
親しげに進められていく日常会話。
世間話も二言三言交えながら、支払いを終えると、店の女主人との会話は終わる。
すぐさま次の店へ向かおうとすると、ここでは珍しい、聞き慣れない声に呼び止められる。
「お嬢ちゃん、ちょっといいかな?」
振り返ると、そこにはやはり見たことの無い目深にフードを被った人がいた。
真夏の晴天の中話し掛けて来たその人は、季節柄珍しく、マントをしっかり上から下まで羽織っていた。
…パッと見、怪しくもある。
だけど、この街では旅人なんてそう珍しい事無いし、さらに種族によっては日焼け対策の可能性もある。
彼女は愛想笑いをすると、なるべく丁寧に答えた。
「なんでしょうか?」
なんだろう、また道を尋ねる人だろうか。
等と彼女が考えていると、次に出て来た言葉はその人を更に怪しくした。
「お嬢ちゃんは…ハレエナさん、かな?」
「…!…だったら、なんですか?」
彼女、ハレエナ・エシティエンス。
同じ名前の人は…彼女の知る限り、ここらには居なかった。はず。
とりあえず、警戒をする。
「…お願いがあってね。」
「お願い?何故あたしなんですか?」
警戒の様子を見てか、その人はうろたえたように少し後ずさる。
「…ついてきて来て欲しい。」
そうボソッと呟くと、その人はいきなり腕を取り走り出した。
やっぱり怪しい人だ!!
つかヤバい人!!
そう思いつつも、手を引かれた驚きからか声は出なかった。
そのまま、路地裏を無作為に縫うように走り回る。
「っ…く、離して下さいっ!」
しばらく路地を突き進んだ所で、ハレエナは手を振り払う。
急に止まったせいで、紙袋の上の方に入れてあった林檎が二つほど、ゴロンと落ちてしまった。
「なんなんですか!?いい加減にしないと警備員さん呼びますよ!!」
吐き捨てる様に言うと、その人はそんな事聞いていないかのように言う。
「危ない!!」
「へ?」
不意に、何処からともなく出した杖によってハレエナは横に薙ぎ払われる。
「きゃ…?…あぐっ!!」
そのまま隣の壁に当たる。
紙袋の中身は完全に辺りに散らばってしまっていた。
それでもなんとか目を開けると、そこには一本の槍が。
それが刺さっているのは、先程までハレエナが立っていた少し先、怪しい人がいる所。
つまりハレエナへ向けられていた。
「今回は早いお出ましだね…」
まるで悔しそうな声で怪しい人は言う。
その声の先は勿論ハレエナでは無く、これまた見知らぬ男二人組が立っていた。
「せっかく、我々が成功したというのに、まだ貴女は足掻くとおっしゃるらしいですからね。」
「…おら、早く捕らえろよ馬鹿…」
「なっ…!?ダグネス、貴方…仮にも兄である私に向かってなんて暴言…!!」
「…チッ、ほら逃げた」
男達の片割れが指した先には、フードを被ったマントの人も、ハレエナの姿もなかった。
「キィーーっ!貴方のせいですよダグネスぅぅうッ!!」
「…なんでだよグランツェのせいだろ…」
細かく入り組んだ路地を、二人は隠れる様に進んでいた。
「あ、あのっ!あの二人は誰なんですかぁ!?なんであたしに槍なんかっ!!」
手を引かれながら、前を行く怪しい人(もっとヘンな人居たけど)に尋ねる。
「…あいつ等には気をつけて。それと、静かに。何処か隠れられる場所は?」
「え、ちょっと先にあたしの家が…」
「わかった。」
それだけ言うと、手を引きながらその人は更に素早く走り出した。
「こ、こけるっ!」
そう主張してみても、返事は無い。
…聞こえているのか、聞いていないのかはよく分からない。
などとしてるうちにハレエナの家に着く。
そこ、と言う間もなく手を引かれ家の門の陰へ隠れる。
…なんだか、ここが目的地だと知っていたような。そんな迷いの無い動きだった。
数分も経たないうちに、目の前を走り抜ける足音が幾つか聞こえる。
更新日:2011-10-30 16:54:22