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Prologue

挿絵 535*800

「…ク…クノ…リア…さ…んぐッッ………!?」
小さな二つの手に首根っこを掴まれ、声に成らない悲鳴をあげるハレエナは苦し紛れに僕へと手を伸ばす。
僕には、もうその手を取ってあげる事など出来やしないというのに。
「クヒヒ…!義父様…今、貴方様の願いを叶えて差し上げますわ…!!」
ハレエナの首を掴んでいる、まだ幼いその少女は、不敵な笑みを浮かべ更にその小さな両手が食い込む程に力を込める。
「…やめ…、……て…れ………!!」
止めろと。やめてくれと。
そう叫ぼうとした僕のその声は、空気を震わす事なく唇から零れ堕ちた。
「…………、…さ…………」
…何を言いたかったのか、最後に小さく口をパクパクさせると…ハレエナは、それまで強張っていた身体をグッタリと垂れた。
それを見届けた幼女は、自分よりも背の高いハレエナをドサリと地面に落とす。
「フハハ!終わった!終わったのよ…!
…そっか…、終わったんだ…終わ…っちゃった…義父…様…」
そう最後に泣き出しそうな声で呟くと、まるで糸が切れた操り人形の様に、その場に少女も崩れ落ちた。
それと同時に、激しい地鳴りが辺りを騒がしくする。
既に廃墟となっていたこの教会が、更に酷い物へと変わろうとしていた。
ぱらり、ぱらりと細かい砂が、ミシリと天井に大きな亀裂が入る度に降り懸かる。
やがて座り込んでいるその床にもピッシと亀裂が入ると共に、轟音をあげながら断層が現れ地面が傾く。
割れたステンドグラスから覗く空は、そう遅くない時間だというのに、どんよりと黒く曇っていて。
「…ッ、おいクノリア!しっかりしろよ!お前にゃまだ繋げる未来があんだろうが!!」
一番早く回復したマトが、力無く滑り落ちかけていた僕を支えてくれた。
「まだお前には、お前にしか出来ねぇ希望を持ってるだろ!?」
「…クノリア!…ねぇ、頑張ってよ…!エレミ…こんな結末は嫌だよ?ねぇ…!」
よろよろと近付いてきたエレミも、そう僕に語りかける。
「…駄目だよ、僕には時空を飛び越える力も、この身体を保つ力さえも…」
僕の体には六角形の皹が入っていた。
…それは魔力の枯渇、それと同時に僕の死をも意味している。
「…ねぇ姉さん…、預けましたよ…?」
「君が、未来の僕達を救ってくれると…僕は信じていますからね。」
クドアとフィーネが近寄り、僕の手を取った。
「…?どういう…事だ?」
既にボロボロの二人から受け取れるものなど、無いに等しいのに。
そううろたえた僕に、エレミが抱き着いた。
「大丈夫…クノリアは一人じゃないよ…?」
「エレミ…?…!!待て!!」
やがて三人の体が光りはじめ…
その光は僕の中に吸い込まれていく。
「おいフィーネ、やめ…!ク、クドア?」
そう名前を呼んでも、クドアはふ、と微笑んでいるだけだった。
意識などしていなくとも、したくないと思っていても、僕の皹が消えていく。
ついにその光は、全て僕の中へ収まった。
「クドア!エレミ!ふ…フィーネぇぇぇええ!!」
立っていたフィーネとクドアは、支えを無くした様にバタリと倒れた。
僕に抱き着いていたエレミも…力が抜けたのか、心なしか重くなり、ずるりと僕から滑り落ちた。
三人は、僕に力をくれた。
それは生命力という、人生最後まで使ってはならない筈の力。
…生命力は、物凄い力だというのに。
僕は…僕の身体は、容易にその力を取り入れたのだった。
今では、あの皹は跡形も無くなっていた。
「…しゃ、おまいら邪魔にゃ?」
それまで、近くでおとなしくしていたユーズは、よっこらせ…と立ち上がった。
致命傷に成り兼ねない傷を幾つも作り、この上無く満身創痍の状態だというのに、僕の近くまで来る。
そして…僕の周りに倒れている三人を、部屋の隅へと移動させる。
「…くー…どあ?」
最後に移動させたクドアの隣に座ると、クドアの頬に手を当てた。
「淋しくにゃんかにゃいにゃ?…くーちゃんも…そうでしょう?
もうすぐ、行くからにゃ?」
うんとも口の聞けない相手に、するべきでは無い約束をしていた。
つつ、とユーズの頬に一筋の滴が流れる。
それでも腕でそれを拭うと、僕へと向き直った。
…その顔には、気丈にも笑顔だった。
「さ、クノリア!
おみゃあには行く所があるにゃ?」
ずびし、と僕を指差す。
…この強さは、やっぱりニャムイーの特性なんだろうか。
だけど、幾らニャムイーが強くとも…、その傷では、やっぱり長く無いんだろうな。
「見送るの、野郎しか居なくなっちまったけど…ま、そこはユーズで勘弁な?」
「にゃにぃ!?おいらはぁ、れ・っ・き・と・し・た男にゃのやぞぉ!!」
「良いじゃん。なんかクドアといいカンジだから良いじゃん。」
「良くにゃーーーーーーーーい!!!」
マトは…どうだろう。

更新日:2012-01-06 03:08:55

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