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第13章 川淵の僕(しもべ)たち

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 優香と麻梨が森に入ると、岸辺には濡れ鼠のような男が2人
とり残された。
「耕平。お前、着替え持ってきたか?」
「まさか。靴下くらいなら入ってるけど」
「俺も同じだ。仕方ないズボンを絞るの手伝え。お前のも一緒に
絞ってやる」
 2人は生まれたままの姿になるとタオルを腰に巻いて、脱いだ
衣類を順に絞り始めた。

「…へぇ。じゃあ、お前、麻梨ちゃんに助けられたのか」
「情けないよね。でも麻梨が来てくれなかったら、たぶん溺れ
死んでたな」
「お互い、九死に一生を得たな。さっきも、あと少し遅かったら
危なかった」
「クトーニアンかー。目も口も無いのにどうやって食べ物を
採るんだろう」
「分からん。あの長い触手から生気を吸い取るんじゃないか?」
「でもずっと土の中だよ。まぁ、宇宙には生まれてから死ぬまで
一度も食事を採らない生き物もいるかもね。クトゥルーの
モンスターなんて誰もちゃんと解明したわけじゃないし…
異次元生物って説もあるから別に不思議じゃないか…。それにしても、
よくそんな近くまで来て何もされなかったよね」

「それが何て言うか…」
 健二が頭の中で回想しながら言った。
「急に動きが止まったんだ」
「止まった?」
「ああ、ズルズルと寄って来ていたのに突然、動きを止めた」
「触手を出すためかな?」
「いや、触手はもう出して広がっていた。何て言うか…呼び止め
られたような感じだった…その後、すぐに潜ったから分からないがな」

「ジョナサンか…あるいは双子…か」
「クトーニアンと関係あるって言うのか?」
「多分」
「聞かせろよ」
 服を絞り終わると、岩の上に干して2人は再び腰を下ろした。

「もちろん。でも冴木さんには聞かせたくないんだ。だから結論だけ
言うね。ジョナサンの産みの親は、やはり双子の兄妹だった。
森の中で産んだみたい。でもさすがに赤ん坊の時は人間と何ら
変わりないからね。育てられないと思ったのか、千枝さんに預ける。
ところが千枝さんは、自分の産んだ子が毎夜変わり果てた姿で
現れるから殺害しようと企てるんだ」
「マジかよ!? 日記に書いてあったのか?」

「聞いて。千枝さんは食事に毒を入れて双子を殺し地下に埋めた。
さっき、俺たちが飛び込んだ穴は、その穴だったんだよ」
「ああ、それで床下にあんな大きな空洞があったのか。だが赤ん坊は
殺そうとは思わなかったんだな?」
「むしろ我が子のように育てたかったみたい。それは、それは
可愛かったんだろうね。でもいつか双子のように身体が病気に
犯されて変わるんじゃないかと考えた末、重大な結論を出す。
それは2人で家を出てアメリカに移る事。まずジョナサンを
留学時代に知り合った絵の好きな友人に託し、自分は
病気の真相を究明するためにアーカムの町や図書館を一人で
回ったんだ」

「そうだったのか…なるほどな」
「本当の理由は分からないよ。ジョナサンを救うためだとは思うけど、
調べていく内にクトゥルーの恐ろしい真相を知ってしまう。
自分の家の血を絶やすまいとしている事が実は、インスマスの血を
継承していることに気付いた筈なんだ。ジョナサンを生かす
という事は同時に、再び恐ろしい惨劇を引き起こしてしまう事へと
繋がる。二律背反て言うんだっけ? ジョナサンを救済する手立ては
ついに見つからなかった。ジョナサンも家督も両方を守ることは
不可能だと知ったんだ」

「あれだけの膨大な資料を集めた結果がそれか。それで、ジョナサンを
殺すのか?」
「分からないよ。その時、千枝さんが何を考えていたか…予定は
変わったと思うけど」
「おい! だがジョナサンは今も生きているし、成人しちまった
んだろう!?」
「そういう事。だから冴木さんには聞かせたくないんだ」
「千枝さんは、ドコで何をしてるんだ。この大変な時に」
「千枝さんは…死んだよ」
「死んだ? まだ、そんな年じゃないだろ。事故か?」
「違う…双子に殺されたんだ」

「双子は毒を盛られて死んだんだろう? さっき、お前がそう
言ったじゃないか」
「死ななかったんだ。毒ぐらいじゃ」
「し、しかし…地中深くに埋めたんだろうが」
「だから呼んだんだよ。クトーニアンを」
「っ!」
 健二の中に一つの大きな結論が出た。
 だが本当に恐ろしい真実はこの後、さらに耕平の口から語られる事に
なる。

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更新日:2015-08-01 19:19:30