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 …お母さん…お母さん、私ね…思い出したの…

 私、子供の頃、怖くなるといつも走ってた

 一人になるのが怖くって、暗闇を恐れていつも走ってた…

 お兄ちゃんがいなくなってからの私はずっと臆病だった

 私の小さな心臓が早鐘のように鳴り始めると、もう止まらなくって

 でも、あれが…木々の合間を縫って…逃げても逃げても追ってくるの

 いつまでも追ってくる…もう駄目、もうこれ以上は走れない

 地べたに両手をついて子犬のように荒い息を吐き続ける

 そして何度も何度も、私はここで死ぬんだって思いながら泣くの

 でも必ず、そんなときにドコからか声が聞こえてきて…

 「川へおいで…靴を脱いで…こっちへおいで…入っておいで」
って呼ぶの

 とっても優しい声…私は怖くて泣いていた事も忘れて、その声の
方へ行くのよ

 導かれるように…

 お母さん…私ね、今ぜんぶ思い出したの…全部…


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更新日:2015-07-23 16:28:21

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