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「冴木さん…」
耕平が目を閉じたまま横たわる優香の胸に、そっと手を当ててみる。
「優香ー、お願い。目を開けてよー」
麻梨が悲痛な声を出し、必死に訴える。
「弱いけど心臓は動いてる…今すぐ病院に連れて行けば、もしかしたら
間に合うかも」
顔を上げ、2人を見ながら言った。
「耕平、すまない。悪いが俺も、今は…自分一人で立ち上がるのが
やっとな状態だ。彼女を支えて歩くなんて到底無理だ。だが少し
時間を置けば…行けるかも…うう、くそ」
節々の痛みが再度、激痛を呼び起こす。
「いいよ、健さん…俺一人で」
耕平は一人ででも優香を担ぎ上げ運ぶのだろう、そういう気迫が
伝わってくる。
「やめておけ。お前一人だけじゃで村まで彼女を担いでは行けない。
それに…今、そんな状態で動かすのも賢明な行為だとは思えない」
なんとか上体を起こした健二が、自分の首と腹を交互に擦りながら
言う。
痛みが回復するのには、今少し時間がかかりそうだった。
「でも…それでも、何とかやってみるよ。そうしないと冴木さんが…
俺のせいで…さっき俺が傍にいてあげなかったせいで…俺のせいだから…
うっ、うっ…このままじゃ、手遅れに…ううっ」
懸命に堪(こら)えようとすれば、するほど涙を誘い頬を伝った。
「耕平…あんた…」
麻梨が何か言いかけた。
「バカヤロウ! 耕平、泣くんじゃない! 心臓は動いてるんだろ?
だったら人間は簡単に死んだりはしない。お前、人工呼吸出来るな?
健二は強い口調で言うが、かなり辛そうだ。
「う、うん…たぶん。でも」
「躊躇してる場合か! 急げっ。彼女に今、それをやってあげられる
のは、お前だけなんだぞ。この意味は分かるな?」
自分の体調の回復に努めながらも、懸命に説得する。
「う…うん。わかった…」
耕平は涙を拭うとリュックを下ろし、中から薄手のジャケットを
取り出すと丸めて優香の背中に当てる。
次に優香の頭部を下げ、一方の手で口を開いて舌が気道を塞いで
いないか確認すると、もう一方の手を枕代わりに後頭部へと当てた。
「慎重にやれよ」
「うん…」
静かに息を吸い込み、次にその息が漏れない内に優香の肺へと送り
込んだ。
全て吹き込み終わると口を離し、続いて優香の顔を胸の方に向けて、
今吹き込んだ空気が上がってくるか確かめながら、再び口を付けて
今度は吸い出す。
だが…何も起こらなかった…。
耕平は諦めず、この一連の動作を一定のリズムを持って1分間に
12回、学校で習った通り正確に行なった…。
(冴木さん、頼むよ。目を覚まして…)
数分が経過した。
「耕平、どうだ…?」
「駄目だよ…全然、息を吹き返してくれない…」
繰り返していた動作を一旦止め、もう一度胸に手を当てた。
「どっ、どうしよう! 心臓が動いてない! とまってるんだ!」
「馬鹿ーっ! 耕平。そんなこと言わないでよーっ! 聞きたく
ないっ! そんなの嘘よ。嘘に決まってる。うわーん! 優香ーっ」
麻梨が両手を顔に当て、大声で泣いた。
「心臓マッサージに切り替えろ。出来るな?」
「で、でも…もう」
「言うな! 心臓が止まっても蘇生できた例はいくらでもある。
まだ諦めるな」
「…ぐすっ、ううっ、冴木さん…ごめん。ごめん…館に行きたいなんて
言ったばかりに…」
押さえていた涙が、再び込み上げる。
両掌を重ね優香の胸部の中心にあてがった。
耕平自身、人工呼吸ならまだしも素人の心臓マッサージなど何の
役にも立たない事は分かっていた…。
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「冴木さん…」
耕平が目を閉じたまま横たわる優香の胸に、そっと手を当ててみる。
「優香ー、お願い。目を開けてよー」
麻梨が悲痛な声を出し、必死に訴える。
「弱いけど心臓は動いてる…今すぐ病院に連れて行けば、もしかしたら
間に合うかも」
顔を上げ、2人を見ながら言った。
「耕平、すまない。悪いが俺も、今は…自分一人で立ち上がるのが
やっとな状態だ。彼女を支えて歩くなんて到底無理だ。だが少し
時間を置けば…行けるかも…うう、くそ」
節々の痛みが再度、激痛を呼び起こす。
「いいよ、健さん…俺一人で」
耕平は一人ででも優香を担ぎ上げ運ぶのだろう、そういう気迫が
伝わってくる。
「やめておけ。お前一人だけじゃで村まで彼女を担いでは行けない。
それに…今、そんな状態で動かすのも賢明な行為だとは思えない」
なんとか上体を起こした健二が、自分の首と腹を交互に擦りながら
言う。
痛みが回復するのには、今少し時間がかかりそうだった。
「でも…それでも、何とかやってみるよ。そうしないと冴木さんが…
俺のせいで…さっき俺が傍にいてあげなかったせいで…俺のせいだから…
うっ、うっ…このままじゃ、手遅れに…ううっ」
懸命に堪(こら)えようとすれば、するほど涙を誘い頬を伝った。
「耕平…あんた…」
麻梨が何か言いかけた。
「バカヤロウ! 耕平、泣くんじゃない! 心臓は動いてるんだろ?
だったら人間は簡単に死んだりはしない。お前、人工呼吸出来るな?
健二は強い口調で言うが、かなり辛そうだ。
「う、うん…たぶん。でも」
「躊躇してる場合か! 急げっ。彼女に今、それをやってあげられる
のは、お前だけなんだぞ。この意味は分かるな?」
自分の体調の回復に努めながらも、懸命に説得する。
「う…うん。わかった…」
耕平は涙を拭うとリュックを下ろし、中から薄手のジャケットを
取り出すと丸めて優香の背中に当てる。
次に優香の頭部を下げ、一方の手で口を開いて舌が気道を塞いで
いないか確認すると、もう一方の手を枕代わりに後頭部へと当てた。
「慎重にやれよ」
「うん…」
静かに息を吸い込み、次にその息が漏れない内に優香の肺へと送り
込んだ。
全て吹き込み終わると口を離し、続いて優香の顔を胸の方に向けて、
今吹き込んだ空気が上がってくるか確かめながら、再び口を付けて
今度は吸い出す。
だが…何も起こらなかった…。
耕平は諦めず、この一連の動作を一定のリズムを持って1分間に
12回、学校で習った通り正確に行なった…。
(冴木さん、頼むよ。目を覚まして…)
数分が経過した。
「耕平、どうだ…?」
「駄目だよ…全然、息を吹き返してくれない…」
繰り返していた動作を一旦止め、もう一度胸に手を当てた。
「どっ、どうしよう! 心臓が動いてない! とまってるんだ!」
「馬鹿ーっ! 耕平。そんなこと言わないでよーっ! 聞きたく
ないっ! そんなの嘘よ。嘘に決まってる。うわーん! 優香ーっ」
麻梨が両手を顔に当て、大声で泣いた。
「心臓マッサージに切り替えろ。出来るな?」
「で、でも…もう」
「言うな! 心臓が止まっても蘇生できた例はいくらでもある。
まだ諦めるな」
「…ぐすっ、ううっ、冴木さん…ごめん。ごめん…館に行きたいなんて
言ったばかりに…」
押さえていた涙が、再び込み上げる。
両掌を重ね優香の胸部の中心にあてがった。
耕平自身、人工呼吸ならまだしも素人の心臓マッサージなど何の
役にも立たない事は分かっていた…。
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更新日:2015-07-23 16:27:14