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第12章 煉獄の果て

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館の地下倉庫内で日記を見つけ、謎解きに耽っていた4人だったが
離れた場所にいた優香の悲鳴が上がると事態は一変した。

「冴木さんっ! どこ?」
耕平は真っ先に声のした方へと向かったが、優香は見当たらず
彼女の落としたペンライトだけが足元に転がっている。

「優香ー、返事してよー」
「冴木さん、どうしたんだい?」
麻梨と健二も一歩遅れて着くと、声を出し呼んだ。

「ぐっ、くぅ…ま、麻梨…ここ…よ。っ…うう」
3人がいる場所から本棚を隔てて、反対側の通路から苦しむ声が
聞こえた。

「やはり向こう側だ!」
今度は健二が先に向かい、ライトで照らした。

「な、何だ! こいつは!? ば、化け物…」
 健二が化け物と呼んだものは人の形をし衣類こそ纏ってはいたものの、
肌を露出した部分は干からび、まるで布を剥ぎ取ったミイラのようだ。
「きゃーっ!!!」
 麻梨も確認すると闇を切り裂くように大声を上げる。
「麻梨ちゃんは離れてて! そっちに行ってるんだ!」
 健二が元いた通路の方を指差す。

「健さん、あれは…?」
「分からない。耕平、何か武器を探してこい。今は俺が何とかする」
 ゾンビともミイラとも呼べない、その化け物は優香を羽交い絞めにし、
空いた手で首元を絞め続けている。
 殺そうとしている事は誰の目から見ても明らかだ。
「でも健さん、武器っていっても、そんな物ここには無いよ」
「さっき俺たちがいた所に古い木製の椅子があった。足をへし折って
持って来い。急げよ! ほら、ライトだ」
「わ、分かった」
 時間的な猶予が無いのは明らかだった。すでに優香は意識を無くし、
身体中の力も失い無理やり立たされているといった状況に近い。

「麻理ちゃん、悪い。アイツを照らしてくれないか」
「は、はい…でも、先輩は…」
 健二は麻梨の返答を聞くまでも無く、その強靭な身体をもって
化け物に突進していった。
「グエエエェッ!」
 タックルをくらった化け物は優香の身体を離したが、替わりに
狭い場所で方向を失った健二の身体にしがみ付いた。
 優香の時と同様、健二の首元に手を当てるとギリギリと締め上げて
いく。
「ぐっ、ううっ! す、すげえ…力だ…」

 化け物の身体は健二とは比較にならないほど小柄だったが、その力は
 健二を遥かに凌駕していた。
「せ、先輩ーっ! 逃げてぇーーっ!!」
 麻梨が声を張り上げ叫ぶ。
「ぐ、ぐぇっ…だ、駄目…だ」
 首筋に骨のように細い指先が食い込んでいく…。
 もう一方の手は腹部にしっかりと巻きつき、今度こそ絶対に
逃がすものかと言わんばかりだった。
 食道部分を掴んで力を加えると、何本もの筋や血管を浮き立たせる。
食い込みはさらに進み健二の口からは、込み上げる胃液と唾液とが
混じり合って吐き出され、喉を伝う。
 健二は全く反撃出来ず、それどころか次第に力尽きていく様が端から
見ていても分かった。

「ど…どうしよう…先輩が、先輩がーっ!」
 麻梨が叫び続ける。
 カッと見開かれた瞼の下の白い眼球だけが、生者のように瑞々しさを
失っていないのが無気味だ。
 乾ききった皮膚ですら、今にも剥がれ落ちそうに朽ちて捲れて
いるのに。

「うぐぐぐぅ…」
 意識が飛びそうになる直前、軽い衝撃ともに健二の身体は
開放された。
 直後、優香の横に並ぶように倒れる。

 間一髪のところで健二を救ったのは耕平だった。耕平は折って
鋭利に尖った椅子の足をまっすぐに持ち、そのまま化け物の
顔面へと突き刺したのだ。
「グエッ!ゲゲゲ…グルルー」
 その簡素な武器は突き刺さると同時に、その勢いのまま背後の
棚に激突し、その衝撃も加わって骨を砕いた。
 頭蓋骨の骨を割り、貫き、内包物さえ押し潰している感覚が次々と
耕平の手へと伝わってくる。
 麻梨の照らし出した明かりの中で今度こそ、その化け物は
最後の命の炎を消した。

「せんぱーーい!」
 目にいっぱい涙を溜めた麻梨が、狭い通路に倒れている2人の
元へと駆け寄る。
「先輩っ! 三枝先輩! 嫌っ! 死んじゃ、やだーっ!」
「ま、麻梨…ちゃん、俺は、大丈夫だから。奴は…化け物は、どう
なった…?」
 健二は麻梨の膝の上で、弱々しく目を開けると聞いた。
「あー、良かった。もう大丈夫です。耕平がやっつけてくれたから」
「そ、そうか…耕平、やったな」
 健二が何とか右腕を上げ、握り拳に親指を立てウィンクしてみせた。

「うん…でも、冴木さんが」
 ゆっくりと優香の身体を抱き起こしながら耕平が言う。
「どうしよう…息をしてないんだ」

「やめてよ! 優香っ! 返事してよ。優香!優香ったらー」
 麻梨の必死の呼びかけにも、優香は全く答える気配はなかった…。


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煉獄(れんごく)…死者が罪を浄化する場所のこと。

更新日:2015-07-23 16:23:01