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「最後の日記を読むよ。
『改めて自分で書いた日記を読み返すと、昨夜、この家で起きた事が
夢では無かった事を思い起こさせる。私は実の子を殺害し、倉庫の
床下に埋めた。
前もって穴を掘り準備だけはしていたが、本当に使う事になって
しまうとは。
これでこの家からあの世へ旅立ったのは、父と母そしてロバートを
含めて5人…いや、あの奇怪な形をした赤子を入れると6人に
なるのだろうか?
アレはロバートが子供部屋から見つけ、その場で絞め殺してしまった。
そういえば、あの死体はその後、ドコへ行ったのだろう?
もう、どうでもいい事ではあるけれど』
…だって。あの包帯に巻かれていたモノについてだよね?
やっぱり千枝さんも知らないことが幾つか、あるみたいだ」
「閉鎖的な村だと、自分達の場所で起きた事件など隠すことが
多いって聞いた事があるわ。ここも小さな村だし、隠蔽されて
いるのかも」
「そっか。とにかく、続けるね。
『それでも私は死ぬ訳にはいかない。隣りの部屋でスヤスヤと
寝っている、あの子の為にも私は死ねない。
今日にでも名前を付け、出生届を出そう。いざとなれば、
理由くらい何とでもなる。
養護施設から引き取った事にしても構わない。この家の血を
絶った事にした方が、あの子の為にはいいかもしれないし。
その後は、どうしよう?
この家で育てることは、さほど難しい事ではない。
幸い両親が残した遺産も十分にある。2人で生きていくには
十分過ぎる程だ。村の人たちも同情してくれることだろう。
だが最大の問題が一つ残る…
それは、あの赤ん坊にも忌まわしいロバートの病原菌が
入ってやしないか、という事。
そうだとしたら私は生きていけない。もう生きていく事に何の
望みも無い。
どうしよう…そうだ、前から予定していたアメリカ行きを
決行しようか。調べてみたい事は山ほどある。赤ん坊は
どうしたらいい? 連れては回れない。では留学中に知り合った
友人に預けようか? 頼むとしたら誰が適任だろう?
定期的に仕送りもしなければならないし。
そして時々は日本に連れて帰る…あの子にとって、この地が
故郷なのだから。
そうだ、ならばこの家にかかる必要な事も、すべて自動で
引き落とし出来るように手続きしておくおこう。そうすれば、
いつ帰ってきても困る事は無い。
善は急げだ。今日、出来ることはやっておこう。ハイヤーを呼んで
町へ出て、書類など細かい事を終わらせ、後は向こうの友人達に
電話して…ああ、そういえば絵の上手い子供好きな友人がいたっけ。
彼女にお願いしてみようか? さぁ、これから忙しくなる。
やる事が増えてきた。あの子の成長を見届けるまで、
私は絶対に諦めない』
これで全部読み終えたよ」
「…ちょっと気になった事があるんだけどいい?」
「何?」
「2人を埋めたって言ったよね? 外じゃないって。倉庫の
床下って…」
「はっ! こ、ここだよ」
優香が喋り終わらない内に、耕平が足元の床を見て言った。
「怖いわ…」
「そうだね。謎は解けたことだし、出ようか?」
「うん」
耕平は手に持った日記を乱暴に棚に戻すと、細かな埃が一気に
舞い上がった。
「ゴホッ、ゴホッ」
「ケホッ、ケホン」
2人は手で仰ぎながら咳(せき)をすると、奥から健二が声を
かけてきた。
「どうしたー? 何か見つかったのかー?」
「うん! 大体、分かったよ」
そこまで返答すると、今度は優香の方を向いて言った。
「ちょっと健さん達に報告してくるけど、ここにいる?」
「いいよ。すぐに戻ってくるでんしょ?」
「もちろん。2人には細かい話しは帰り道か、家に戻ってから
説明するよ」
「じゃ、ここで待ってる」
耕平はライトを持っていなかったが、奥の明かりを頼りに
2人の元へと向かった。
「あれ? 優香は?」
着くなり麻梨が聞いた。
「向こうで待ってるって。もう帰るんだよ。だから」
「全ての謎が解けたんだな?」
「大体ね」
「呪われた屋敷なんかじゃなかったんでしょー?」
「まあね。おそらくはロバートさんがインスマスの血を引き込んで
しまったのが、すべての元凶ってとこだね」
「結局、双子とジョナサンは…ん?おい。今、何か音がしなかったか?」
健二が部屋の入口の方を見ながら言った。
「まだ冴木さんが何か探してるのかも」
「音は、通路のこっち側からしたぞ」
健二が、もう一方の通路の奥を指差す。
「そう? 移動したのかな? でもライトも持ってるし…」
そこまで言うと、大きな音が2度、続いて優香の悲鳴が聞こえた。
ガタッ、ガタンッ!
「きゃーぁっ!!!」
「何だ!?」
「冴木さんっ」
「優香!」
3人は急ぎ、声の方へと向かった。
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「最後の日記を読むよ。
『改めて自分で書いた日記を読み返すと、昨夜、この家で起きた事が
夢では無かった事を思い起こさせる。私は実の子を殺害し、倉庫の
床下に埋めた。
前もって穴を掘り準備だけはしていたが、本当に使う事になって
しまうとは。
これでこの家からあの世へ旅立ったのは、父と母そしてロバートを
含めて5人…いや、あの奇怪な形をした赤子を入れると6人に
なるのだろうか?
アレはロバートが子供部屋から見つけ、その場で絞め殺してしまった。
そういえば、あの死体はその後、ドコへ行ったのだろう?
もう、どうでもいい事ではあるけれど』
…だって。あの包帯に巻かれていたモノについてだよね?
やっぱり千枝さんも知らないことが幾つか、あるみたいだ」
「閉鎖的な村だと、自分達の場所で起きた事件など隠すことが
多いって聞いた事があるわ。ここも小さな村だし、隠蔽されて
いるのかも」
「そっか。とにかく、続けるね。
『それでも私は死ぬ訳にはいかない。隣りの部屋でスヤスヤと
寝っている、あの子の為にも私は死ねない。
今日にでも名前を付け、出生届を出そう。いざとなれば、
理由くらい何とでもなる。
養護施設から引き取った事にしても構わない。この家の血を
絶った事にした方が、あの子の為にはいいかもしれないし。
その後は、どうしよう?
この家で育てることは、さほど難しい事ではない。
幸い両親が残した遺産も十分にある。2人で生きていくには
十分過ぎる程だ。村の人たちも同情してくれることだろう。
だが最大の問題が一つ残る…
それは、あの赤ん坊にも忌まわしいロバートの病原菌が
入ってやしないか、という事。
そうだとしたら私は生きていけない。もう生きていく事に何の
望みも無い。
どうしよう…そうだ、前から予定していたアメリカ行きを
決行しようか。調べてみたい事は山ほどある。赤ん坊は
どうしたらいい? 連れては回れない。では留学中に知り合った
友人に預けようか? 頼むとしたら誰が適任だろう?
定期的に仕送りもしなければならないし。
そして時々は日本に連れて帰る…あの子にとって、この地が
故郷なのだから。
そうだ、ならばこの家にかかる必要な事も、すべて自動で
引き落とし出来るように手続きしておくおこう。そうすれば、
いつ帰ってきても困る事は無い。
善は急げだ。今日、出来ることはやっておこう。ハイヤーを呼んで
町へ出て、書類など細かい事を終わらせ、後は向こうの友人達に
電話して…ああ、そういえば絵の上手い子供好きな友人がいたっけ。
彼女にお願いしてみようか? さぁ、これから忙しくなる。
やる事が増えてきた。あの子の成長を見届けるまで、
私は絶対に諦めない』
これで全部読み終えたよ」
「…ちょっと気になった事があるんだけどいい?」
「何?」
「2人を埋めたって言ったよね? 外じゃないって。倉庫の
床下って…」
「はっ! こ、ここだよ」
優香が喋り終わらない内に、耕平が足元の床を見て言った。
「怖いわ…」
「そうだね。謎は解けたことだし、出ようか?」
「うん」
耕平は手に持った日記を乱暴に棚に戻すと、細かな埃が一気に
舞い上がった。
「ゴホッ、ゴホッ」
「ケホッ、ケホン」
2人は手で仰ぎながら咳(せき)をすると、奥から健二が声を
かけてきた。
「どうしたー? 何か見つかったのかー?」
「うん! 大体、分かったよ」
そこまで返答すると、今度は優香の方を向いて言った。
「ちょっと健さん達に報告してくるけど、ここにいる?」
「いいよ。すぐに戻ってくるでんしょ?」
「もちろん。2人には細かい話しは帰り道か、家に戻ってから
説明するよ」
「じゃ、ここで待ってる」
耕平はライトを持っていなかったが、奥の明かりを頼りに
2人の元へと向かった。
「あれ? 優香は?」
着くなり麻梨が聞いた。
「向こうで待ってるって。もう帰るんだよ。だから」
「全ての謎が解けたんだな?」
「大体ね」
「呪われた屋敷なんかじゃなかったんでしょー?」
「まあね。おそらくはロバートさんがインスマスの血を引き込んで
しまったのが、すべての元凶ってとこだね」
「結局、双子とジョナサンは…ん?おい。今、何か音がしなかったか?」
健二が部屋の入口の方を見ながら言った。
「まだ冴木さんが何か探してるのかも」
「音は、通路のこっち側からしたぞ」
健二が、もう一方の通路の奥を指差す。
「そう? 移動したのかな? でもライトも持ってるし…」
そこまで言うと、大きな音が2度、続いて優香の悲鳴が聞こえた。
ガタッ、ガタンッ!
「きゃーぁっ!!!」
「何だ!?」
「冴木さんっ」
「優香!」
3人は急ぎ、声の方へと向かった。
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更新日:2015-07-23 16:18:46