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小説

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第11章 絶望、そして混沌

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『クトゥルー神話』を世に広め、その恐怖を予言し訴えながら
若くして逝ってしまったH・P・ラブクラフト。彼の代表作に
「アメリカはマサチューセッツ州にある港町インスマス。
すべては、ここから始まった…」と記す『インスマスを覆う影』
がある。
 この架空の地名をあてた港町には今から70年以上も昔、
一つの大きな事件が起きていた…。

 政府の役人たちが尋常ならざる調査を始め、大規模な手入れと
逮捕が行なわれる。
 事態はそれだけに留まらず、港や海岸の一部は焼き払われたり、
爆破されたりした。
 全てはここに端を発した…ラブクラフト描くところの
『クトゥルー神話』がまさに、ここに始まったのだ。

 何故、それ程までの大人数の囚人の処分があったにも関わらず、
政府は何も発表しなかったのだろうか?
 1927年初頭、インスマスの町は一夜にして無人の町と
化したというのに。
 いや無人というのは正しい表現ではない。何故なら80年以上
経った今でも、ごく僅かに残された人々が今も復興の努力を
しているのだから。
 それは「教団」という一種異様な形で…。

 ラブクラフトは小説の中で、主人公の母の出身地アーカムへ
向かう下りから書き始めている。
 途中、ニューベリーポート駅の係員に聞いた事から、インスマス
経由のバスに乗ってしまった。
 だが、この係員によればインスマスには不吉な噂話が
絶えないのだと言う。
 1846年に起きた伝染病で人口は半減し、さびれていくのに反し、
なぜか魚だけはよく獲れる。
 観光客や役所の人間まで行方不明になるなど、不可解な事件は
多かった。
 それでも日中は風景が綺麗だから、ちょっと寄るだけなら
良いのではないかと言われ、主人公はフラリとバスに
乗ってしまった。

 港に着き、降りてみると住民達の異様な面相にまず驚かせられる。
 さらに魚市場のような魚臭さが主人公を一層、不快にさせた。
 人口は400人程度。住民は皆、「インスマス顔」という
共通点を持っていた。
 その魚や両生類を思わせる異様に離れた目と目の間隔、その面相は
目を覆いたくなる程だ。
「蛙じみた魚のような顔」という表現が正しいかどうかは別として、
主人公はこの無気味な雰囲気の漂う港町で数日を過ごすことになる。


 連日に及ぶ異教徒「ダゴン秘密教団」の祈祷について調べていく内に
主人公は、「インスマス人」と「深き者ども」との関係を知る。
 クトゥルーの下僕(しもべ)、「深きものども」の血を受け入れた
インスマスの町の人達は、成人に達する頃、しだいに身体が
変容してゆく…。
 これが血筋とは無縁の病ではない事に気づいた主人公は急ぎ、
町からの脱出を図るがすぐに「奴ら」に発見され追われる。
 数日後、なんとか脱出した彼の訴えと証拠によりインスマス港は
政府によって大量の住民が逮捕され、町の各所は爆破された。

 だが政府は、これを発表しなかった。
 ラブクラフトは膨大な資料と聞き込みによって各地を回り、
そしてこれに架空の名称を与えることによって神話小説という形で
世に出す。
 それが『インスマスを覆う影』だ。
 これは事実を元にした記述小説なのである。
 これが世に出たのは1936年。今から70年以上前である…。

 そして、その主人公「彼」の後日談には、こう書かれていた。
『無事、平凡な生活に戻ったある夜、海底で曽祖母に会う夢を見る。
朝、目が覚め彼は鏡に映った自分の顔を見て絶叫する。
 その顔はまぎれもない、あの「インスマス顔」だったのだ。

 彼はピストル自殺を考えるが夢を思い出し、思いとどまった。
 深海への想いが深まる一方で、知らずの内に「ラ・ル・リェー…
クトゥルー・フタグン…」と唇が勝手に動き始めたのだ。
 彼は海に向かって歩きだす。そう、深海の神のいるあの
巣窟へ行き、永遠に生きることを夢見て…』



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更新日:2015-07-20 17:30:45