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 外に出ると広大な山の緑が、まず4人の瞼に焼き付いた。
 そして、その山々から流れてくる水を運んで、幅は広いが浅い川が
村を大きく二つに割っているのを確認できる。

「この橋、架け直したのね。綺麗になってる」
「それはさ、冴木さんみたいに又、落ちる子供がいると危ないから
造り直したんだよ」
「失礼ね。私が落ちたのは橋じゃないし、もっと先ですよーーだ」
 優香は先頭を切って歩いていたが、健二のジョークに振り向いて
茶目っ気たっぷりに、舌を出して答えた。
 そんな2人をよそに、耕平は珍しく塞ぎ込んでいる。

「耕平、どうしたのよ。元気ないじゃん。お腹でも痛いの?」
「麻梨はいいよなー…悩みがなさそうで…」
「そう? そう見える? だったら私は役者になれるわね。
だって本当の私は抱えきれないくらい沢山、沢山悩みが
あるんだからー」
 そう言いながら麻梨は橋の上で両手に、空(カラ)の荷物を
抱えてヨタヨタ歩くパントマイムを演じてみせた。

「ねぇ、耕平。これから行く館の中にはさ、何がいると思う? 
お化けかな? 幽霊かな? 楽しみだね。怪獣だったりして」
「麻梨。お前、優しいな…俺に気遣って言ってくれてんだろ?」
「へ? 何のこと? 私、わっかんなーーい」
「…ありがとう。もう、大丈夫だ」
 両手を高く上げ大きく息を吸って、背筋を伸ばすとニコリと
微笑んだ。

「あれ? そういえば、ジョナサンってなんで、日本語が片言
だったのかしら?」
 突然、立ち止まって優香が言った。
「そっか、そう言われてみれば、そうだね」
「彼の母国語が日本じゃないからでしょ?」
「アメリカだって言いたいのか? でも耕平、ジョナサンはココで
生まれたって言わなかったか?」
「あ、そうだった。あ、でも…そうとは限らないけどね」

「たしか…お婆ちゃんに、日本語教わったって聞いたけど…
これって、どう考えても変よね」
「うーむ、不思議だ。英語ペラペラの遺伝子が組み込まれていたん
だろうか?」
「いや健さん、それはもっと変だ」
 4人は答えの出ないまま、館に向かってさらに足を進める。

「あっ、ほら! ねえ、あれじゃないの?」
 優香が指した小高い場所に、気品すら漂わせた洋館が緑に
囲まれ建っている。
 もっとも辺りは鬱蒼(うっそう)とし、見えるのは屋根と
二階の一部分だけだが。

「あの館の裏には3人もの呪われた魂が、今も地中深くに眠って
いるんだ。なぜ自殺し、はたまた誰の為の死かは知らないけれど…」
 耕平は、まるで映画かドラマのナレーションのように呟くと、
さらに言葉を繋いだ。

「…一般に動物は死を理解出来ない生き物だといわれている。
絶望の淵に立たされ生か死の選択を迫られた時、ほとんどの場合、
死を選んでしまうのは何故だろう? 死んでしまったら、後には
何も残らないのに…彼らを自殺にまで追い込み、血を
絶ってしまおうとしたのには、何らかの理由が必ずあの館には
あると思うんだ。僕は、それをこの目で確かめたい」

 そして4人はついに、その最終目的地である館を眼前にした。

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更新日:2015-07-13 17:21:30

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