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小説

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「男の右手には包帯が巻かれておった。そして数人が立ち会いのもと、
まずその包帯が解かれた…爆弾とか危険な物かもしれんからな」
ゴクリ。誰かが生唾を飲みこんだ。
「え? その場で、ですか?」
 探偵気取りの耕平は聞く。

「そうじゃ。本来なら現状維持なんじゃろうが、警官もおったし
何人もの人間がいたから証言も取れる。そんなわけで医者は右手に
巻かれた包帯を解き始めた」
「うわぁ、いやーな予感がする」
 老人の表情を汲み取った麻梨が小声で言った。

「包帯はかなりきつく、しかも幾重にも巻かれ、その長さは
二間(けん)分程もあったそうじゃ…」
「一間ってどの位の長さ?」
 優香が聞いた。
「オレたちの身長くらいかな」
 健二がそれに答える。
 4人の背は健二が185センチ、耕平は健二より10センチほど
低く、優香は160センチ、麻梨はさらに数センチ低い。

「それ程の長さの包帯じゃったが取り終わると、さらに半透明の
ビニール袋が被せてあった。どうやら怪我や危険物でない事は
分かったんじゃが、何か得体の知れないものが手に握られて
いるのが、うっすらと通して見えた」
「得体の知れないもの…?」
「ほらね、やっぱり」
 一人が漏らした台詞に被せるように麻梨が発した。

「何と説明したらいいんじゃろうな…見た者も言うておった。
『あんなモノは見たことがねえ、あれは猫の子でもねえ。鼠でも
蛇でもねえ、ましてや人の子では絶対にねえ』と。右手に
握られていた位じゃから大きさは多分、こんなもんじゃろう」
 老人は右手の掌を上に向けると、さらに説明を続けた。

「…それは明らかに生き物だった形をしておった。じゃが、それは…
そうじゃな、奇形の胎児というものを想像できれば、それが一番近い
言い方かも知れんがそれも違うじゃろ。なぜなら、そいつには小指の
長さ程の尾尻が付いており…」
「えーーっ、何なのそれ。気持ち悪い」
 麻梨が露骨に嫌な顔をして背けた。

「それだけではない。首には蛇腹状の皮層が何段もあり、何と
いっても皮膚は半透明の皮膜に包まれ身体全体が嫌な光沢を
放っていたそうじゃ」
「生きてたんですか?」
 全く動じない耕平は、冷静に聞いた。

「そんな訳はない。ビニール袋を被せられ息が出来ぬよう麻紐で
閉じられた後、さらに包帯で一分の隙もない程巻かれておったの
じゃからな…もっとも、そうする前に絞め殺していたようじゃ。
男の右手指は千切らんばかりに喉笛に喰い込んでいたというからな」
「何だったんだろう…? 人間の進化の途中には尻尾が生えてたり、
エラが付いてたりした頃もあったと思うけど…うーん、
見たかったなー、それ」

「耕平、あんた生物学者か何かになりなさいよ。私なんか、そんなの
見たらもう、その場で卒倒もんよ」
「でも貴重な体験をしましたよね」
 健二が老人を見て言った。
「その場に居合わせた者以外、誰も見てはおらんがな」

「運ばれた病院に保管してないんですか? アルコール漬けにして
あるとか」
「それがな。紐を解いて手から袋を抜き取ると、辺りに、もの凄い
異臭を放ってな。多分腐っておったのかもしれんが…ソレが
何なのか調べる為に手から解放しようと試みたが、肉汁が
ボタボタと地面に落ち始めた。しまいには骨も完全に溶けて
後には何も残らなかったそうじゃ」

「外気に触れたから溶けたんだろうな」
 耕平が腕組みをして考えていると、優香が口を開いた。
「でも生きている時間が少しはあった訳よね」
「うん。それとも死んで外気に触れたから、身体の組織が崩れて
いったんだろうか」

「さて、これで全部聞かせて貰った事だし、お部屋に行こうか?」
 ついに区切りを見つけた麻梨が立ち上がった。
「ちょっと待ってくれよ。死んだ人たちの話しは全部聞いたけど、
他の人がその後、どうなったのかまだちゃんと聞いてないよ」
 耕平が、今までの考えを中断し慌てて呼び止めた。

「もういいじゃない。今日はもう遅いしさ、寝ようよー」
「おい、おい、まだ11時過ぎたばかりだぜ。せっかくだし
最後まで聞こうよ」
「やだ、やだ、嫌だ!」
「子供じゃないんだから、駄々こねるなよ」
「いーやよ。べぇー」
「麻梨さんや、それに耕平くんか。喧嘩せんでもいいわい。
もう話しは終わりじゃ。後に残された連中は皆、本当に何処に
行ったのか分からんのじゃ。考えたくはないがな、あの家に
関わった者は皆、死ぬ運命なんじゃろう。もし残された者が
いたとしたら、恐れて出て行ったんじゃなかろうか」

 老人はグラスを持ち氷をカラカラと音を立てると、溶けた水を
飲み喉を潤した。
 その動作は、まだこの先に話しが続くことを暗に告げていた。

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更新日:2015-07-13 16:33:44