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第8章 死して、なお眠る

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「…」
「今も家は、その時のままなんですね?」
 なかなか話しを切り出さない老人に健二が焦点をずらして聞いた。

「ああ、そうじゃ。そんな質問をする位じゃから、行ってみたいん
じゃろ?」
「えぇ…まあ」
「ただ中には入れんよ。鍵もかかっておるしな」
「あ、鍵なら私…」
 そこまで優香が言いかけたところで、耕平がいきなり割って入った。
「おじいさんっ!」

「な、なんじゃ? 急に大きな声を出して」
「亡くなった人たちの続きを聞かせて貰えませんか?」
「ああ、構わんよ。と言うても確認出来ておるのは残りは一人
だけじゃ。あとは分からん。行方不明という事になっておるが…」
 老人の話しを聞きだすことに成功した耕平はすかさず、自分の口に
指を当てて優香にサインを送る。

「うん」
 サインの意味を理解した優香は小さく返事をした。
(家の中に入るなんて言ったら心配させちゃうもんね。沢本君、
ありがとう)

「聞かせて下さい。呪われた3人目の話を…」
「はうー。結局、聞かなきゃなんないのよね」
 半ば諦め口調の麻梨も、やむなく聞く態勢に入った。

「あの男の名は…確かレナードとか言うておったな。惚れた女と
一緒になる為に、こんな山奥に移ったものの結局は死にに
来たようなもんじゃ…」
「ねー、ねー、優香。あのさー、これ聞いたら寝るよね?」
「う、うん。そうね…」
「心配せんでもいい。本当に、これで終わりじゃ。もう他に
死んだものはおらん。少なくとも、それを見た者は誰もおらんわい」

「でもあと、その家に残されているのは村長の娘さん、千枝さん
でしたっけ? それとレナードさんとの間に生まれた双子の子供が
いますよね?」
 耕平が今までの話しを総括するかのように老人に問うた。
「もう一人、あんたらが町で会ったとかいう外人が無関係ならな」
「あ、そっか。ジョナサンがいた」

「その男が何者かは知らんが、とにかく今言った者たちはある日、
忽然と消えたよ」
「消えた…んですか?」
「いなくなった、と言うべきかな…村の者は皆、呪われた館に
飲み込まれた、などと言っておるが」
「…」

「で、レナードの方じゃが。奴は家にあった猟銃を持ち出して、
己の頭を撃ち抜いたんじゃ」
「耳が慣れたせいか、3人の中じゃ一番まともな死に方に思えるな」
 健二が耕平に同意を求める。
「うん」
「ところが、これがそうでもないんじゃよ。奴は裸で…いや、褌
(ふんどし)は着けておったがの、裏の森の大きな木に寄り
かかって銃口を口で咥え、左腕を銃身の上に乗せて支え、器用に
右足の親指で引き金を引いた…」
 老人は軽いジェスチャーを加え、状況説明をした。

「外人のくせに褌なんて、変なの」
 やや顔を赤らめ麻梨が言う。
「身も心も日本人になったという奴なりの証明がしたかったのかも
しれんな」
「それにしても、レナードさんは左利きだったのかな? 普通、
銃身は右手か両手で支えるけどね?」

「おお、良い所に気が付いたな。耕平君か、あんた刑事か探偵に
なれるぞ」
「へへ、そうですか? 照れちゃうなー」
「耕平、社交辞令よ。社交・じ・れ・い」
 麻梨がさっきのお返しとばかりに、突っ込みを入れた。

「それで、右手には何か握られていたんですか?」
「うむ。つまりは、そういう事じゃ…」
 老人は氷だけになったグラスを見つめ、またしても大きな溜息を
ついた。
「これも聞いた話しじゃからな。果たしてどこまで真実やら…
じゃが、駆けつけた医者や駐在所のお巡り、他にも居合わせた数人が
間違いなくソレを見た…」

 麻梨は耳を塞ぐ事を忘れ、優香の腕にしがみついて老人の話しに
聞き入った。



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更新日:2015-07-13 16:28:08