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小説

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挿絵 400*300

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「村長の奥さんじゃよ。こっちも結構な年じゃったが気の良い、人に
好かれる婆さんじゃった。それが…なぜ、あんな事になったのかな…」
「……」
 4人とも無言のまま老人の次に続く言葉を待った。


「あんたら水車小屋を知っておるか?」
「あっ、俺知ってますよ。川の水を汲み上げて田んぼとかに
流すんですよね」
 老人の質問に耕平が真っ先に答えた。
「ふむ、間違ってはおらん。では小屋の中には何があるか知っておるか?」
「小屋の中…?って人がいるんじゃないんですか? 水車が止まったり
しないように管理してる人が…」
 今度は健二が答えた。

「ふん、都会もんは新しいものには詳しいが、古いものには関心が
ないとみえるな」
「何だろう…分かんない。私が子供の頃、遊びに来た時には
無かったような気がするけど」
「そうじゃな。優香が生まれた頃にはすでに、この村のドコにも無かった
じゃろう。あんな事故さえ起きなければな」
「その事故のせいで、みんな壊してしまったんですね」

「ああ、あれも何とも悲惨じゃ…儂は聞いた話しで直接見てはおらんが、
知った時は一瞬耳を疑ってしもうた」
「小屋の中でお婆さんが殺されたの?」
「いんや、またしても自殺じゃよ。確かに村長が逝って暫く魂が
抜けたように放心状態ではあったが…それにしても、あれは酷い」
「また自殺…」

「水車小屋というのはな、中に臼(うす)がいくつも並べてあってな。
この中に籾(もみ)を入れておくと、水車が回ることによって
杵(きね)が振り下ろされ、綺麗に穀が取れるような構造に
なっとるんじゃよ。
 両手程の籾が米と言われるようになるまでは半日程もかかるから、
効率はいいとは言えんがな…
 まあ、そんな事はどうでもいい。ここまで話せば気づいたと思うが
婆さんは、この臼の中で頭を叩き割られて死んでいた」

 「もう、やだ。信じらんない」
 即座に麻梨が反応した。
「そ、そんな事が…可能なんですか?」
「可能も何も本当にあった話しじゃからな。夕方、米を回収に
行った時には、すでに婆さんの頭は形も無く、粉々になった断片が
辺りに散っておったらしい」
「うーー、いやだってば。もう…」
 麻梨は両手で耳を塞いで、ちゃぶ台にうつ伏せて、もうこれ以上
聞くまいと懸命に努力していた。

「あたりは床といわず、壁といわず飛び散った血で真赤に染まって
おったそうじゃ。水車は水が流れている限り、誰かが止めねば延々と
杵を振り下ろすからな。それは、それは恐ろしい光景じゃったろう」
 ここにいる全員が、おびただしい量の血に染まった小屋内部を
想像した。
「でも…それ、本当に自殺なんですか? 何ていうか、その…ちょっと
凄すぎて想像できません」
 健二が疑念を持ったか、老人に問いただす。

「想像なんか無用じゃよ。婆さんの両方の手は死んだ後も、臼に
しがみついたままじゃったんじゃから」
「首の無い死体か」
 耕平の漏らした言葉に、しばし3人は息を殺し、さらに続く老人の
言葉を待った。
「しかしな、夫婦揃ってここまで死ぬことに執着させるものが一体
何なのか、儂としてはそっちの方が気にかかるわい」
「自殺しなければならない程の何か、追い込まれた理由でもあったんで
しょうか」

「追い込まれた訳か。そうじゃな、正常な人間なら訳もなく自殺したり
せんからな」
「やはり原因は、あの外人にあったんじゃないかしら?」
「やはり、そう考えるべきだろうね」
 優香の発言に健二が同意した。

「儂らもそん時、そう思ったさ。じゃがな、その外人も双子が揃って
中学を卒業した翌年に自殺してしもうた」
「また、自殺ですか?」
「ねーーっ、もういいよー。やめようってば、ずっと押さえてたから
耳痛くなっちゃったじゃない!」
「あっ、本当だ。麻梨の耳、真赤だ」
 優香が麻梨の片側の髪を持ち上げ、耳を見て言った。

「さすがにな、もう3人目ともなると誰も犯人が誰とか言わなく
なったよ…」
「なぜです?」
「自殺に違いないからじゃよ。現場には本人以外の何者の痕跡もない…」
「それにしても、死ぬからには何かそれなりの理由があるんじゃ
ないですか?」
「考えてもみい。同じ家から他所者を含め立て続けに、3人の自殺者が
出たんじゃぞ。到底、考えられんこっちゃ。
しかも3人とも、考えもつかぬような酷い有様じゃ。村人達は皆、
口々に『あの家は呪われている。住む者は皆、気が狂う』と言っておる」

 老人は長い台詞を吐き出すと大きなため息を一つつき、残りの麦茶を
口に運んだ。

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更新日:2015-07-13 16:24:44