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「いやー、食ったー。もうなんにも入んないよ俺」
「やっぱり東北の、ご飯は味が全然違うわね」
「お米が違うのかしら」
「きっと水じゃないか」
 4人は無事たどり着くと風呂場で汗を流した後は、怒濤の勢いで
空腹を満たしていった。

「どうじゃな、口に合いましたかな?」
 早々と夕食を済ませていた優香の祖父は、4人が食卓につくと、
入れ替わりに風呂へ向かった。
「あ、おじいちゃん。うん。今、食べ終わったとこ」
「ご馳走様でしたー」
「すみませんでした。僕らの方が先に、お風呂に入ってしまって」

 優香を除く3人が頭を下げると、次には優香も加わって食器類を
片づけ始める。
「あんたら長旅で疲れとるじゃろ。何もせんでいい。座っていなさい」
「いいえ、そうはいきません」
 2人づつに分担し一方が食器をまとめる、もう一方が流しまで
運ぶとちゃぶ台の上は、すっかり奇麗に片づいた。

「さすがに若いもんはやる事が早いわい。儂のやる事が無くなって
しもうたな」
 そう言うと、流しで食器を洗う祖母も口を挟んだ。
「あらあら、それではいつも片づけを手伝っているような言い草ね」
「ありゃりゃ、婆さんに聞こえてしもうたか」
 ランニングシャツとパンツ姿の祖父は腹を掻きながら照れてみせた。

「あのー、洗い物もお手伝いしますけど」
 麻梨が、まだ立ったままの姿勢で言った。
「いいのよ。座ってなさい。洗い物は私の仕事なんだから」
「いいんじゃよ。こんな家にお客さんが来て飯を食うなんて滅多に
ないことじゃ。久々に仕事が増えて婆さんも喜んでおるんじゃよ」
「でも…」
「今日から2日間、ごやっかいになるんです。何かお手伝いできる事が
あったら何でも言ってください」
 健二がみんなを代表して言う。

「何も気にせんでいい。それよりも飯はどうだった? 都会のような
洒落たオカズは何も無いが」
「最っ高ーに美味しかったです。今もみんなで、どうやったらこんなに
美味しく、お米が炊けるのか話し合ってたんですよ」
 食べ物の話しに飛びついた麻梨が、座って老人に答えた。
「やっぱり水でしょうか?」
 耕平もそれに続く。

「そうじゃな。確かに水は重要かもしれんな」
「でも水って、どこも同じなんじゃ…大して変わんないんじゃないの?」
 優香が不思議そうな顔をしている。
「僕らが毎日、飲んでいる水は貯水池から流れてくるもので、
カルキとか防腐剤みたいな薬が色々入ってるんだ」
「人体には、もちろん害は無いんだけどね」
 耕平の台詞に健二が一言加える。

「この辺りはどこも地下水じゃからな。どの家も側にボーリングで穴を
掘ってモーターで汲み上げてるんじゃ。優香は毎年来るのに
知らんかったのか」
「だって、おじいちゃん、そんなこと教えてくんなかったじゃない」
 すぐさま優香が反論する。

「この辺り、一帯に山から地下水が流れ込んでいるんですか?」
「ああ、だからしばらく雨が降らんでも水に困ることはない。米も
野菜も豊富で食うには全く困らんぞ」
「地下水って人体にはいいんだって聞いたことがある」
「ああ、鉄分とかミネラルとか入っているとかな」
 男子2人が僅かな知識を交換し合う。

「ところで、いい若いもんが揃って、こんな何もない田舎に来たのには
何か訳があるんじゃろ?」
「ええ…まあ…訳というか…」
 年長の健二が答えようとしたが、ここは全てを熟知している耕平が
助け船に入った。
「実は…」
 耕平の話はこうだった…
 町で知り合った外人が突如として失踪した事、残されたメモに、
ここの村の事が書かれてあった事などを要約し、老人に余計な心配を
与えぬよう配慮した。

「外人か…ああ、そう言えば、この村にも一人おったよ。
前の村長ん所にな。もう、何十年も前の話しじゃ」
「村長さんの家にですか?」
「そうじゃ」
「どうやら、その家に行けば謎が解明しそうだな? なぁ、耕平」
「行ってどうするんじゃ?」
 急に鋭い目つきになった老人が問うた。

「いえ、お話しだけでも聞かせてもらおうかと思って…あの、何か
問題でも?」
「話しなんぞ出来んよ。あの家には今は誰も住んでおらん」
「引っ越しでもしたんですか?」
「…いや、そうではない。死んだんじゃよ、皆」
「ええっ!?」
「優香、あそこには行かない方がいいわよ」
 洗い物の手を止め、祖母が言った。
「そうじゃ。あの家には近づかん方がええ。優香、あの家はな
呪われとるんじゃ」

 静かな山中の家で今、老人の口から恐ろしい話しが語られ始めた…。

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更新日:2015-07-13 16:03:53

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