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「魚人間と蛙人間さ」
「えっ、そう…だっけ…?」
「うん。でも、だからと言って『不思議の国のアリス』と
『クトゥルー神話』を結びつけるのには無理があるけどね」
「…そうだよね」
「それよりも不思議で仕方がないのは、この作品が児童文学の名作と
誉れ高い評価を受けているけれど、子供たちは本当に理解して
読んでいるんだろうか?」
「どういう意味?」
「分かりやすく翻訳してあるとはいえ、意味不明の言葉遊びや
想像を超えたキャラクターが数多く登場するストーリー構成は、
今読み返してもかなり難解だと思うんだ」
「図書館に置いてある本の帯には『近代ファンタジーの傑作』って
書いてあったよ」
「いや、むしろ現代的で恐ろしいまでに細かい心理描写が施されてる。
結局、あの話しは夢落ちということで終わっているけれど、
あれ程までにグロテスクな光景を可愛い動物たちに置き換えて、
世に伝えた裏には何かあるんじゃないかって思うんだよね」
「心理操作? やっぱり、クトゥルー…?」
優香は覚えたての単語を大切そうに使ってみた。
「冴木さん、自動書記って言葉、聞いたことある?」
「ワープロとかファクシミリのこと?」
「違うんだ。遠くにいる者、あるいはこの次元には存在しない者が、
ある能力によって一定の人物の手を借り絵や文字を書かせることを、
そう呼ぶんだけどね」
「じゃあ…」
「いや、ごめん。考え過ぎだ。ラヴクラフトとキャロルの交遊関係は
無かったし。それにこんな事を言ってたら、世にあるホラーや
ファンタジーは全てクトゥルーになってしまう」
「…うん」
結局はどんな仮説を立てようと、堂々巡りになってしまう事を知って
いても耕平はその一連の行為を楽しんですらいた。
それでも優香は耕平の言葉を真剣に聞き、次の言葉をじっと待って
いる。
(そういえば、キャロルの小説のあの意味不明な言葉はインスマス語
ではなかっただろうか?どこの国の言葉でもなく、ただあの町の
ヤツらだけが発する言語、それがインスマス語)
耕平は自分が提示した事柄を確認するように、再び考えを
巡らせた。
(そもそも「クトゥルー」と言う単語すらも正しくはないのだ。
「クトゥルフ」、「クスルー」という人もいれば「クリトルリトル」
という人もいる。
ルイス・キャロルか…旅行から帰ったら一度調べてみようか…)
「それにしても冴木さんが、こんなに関心を示すなんて
思わなかったよ」
優香の熱い視線を感じた耕平が言う。
「う、うん…そうね。実は自分でも、ちょっと驚いてる」
優香は照れ隠しするように、車窓に広がった広大な海へと視線を
移した。
「冴木さん。地球上には、どの位の種類の生き物がいると思う?」
無言で海を見続ける優香に聞いてみた。
「うーん、1万位? 2万かな。もっとなの? 10万?」
なかなか首を縦に振らない耕平を見ながら、優香は数字を
上げていく。
「地球上に確認されている生物の数は大体100万種だ。未発見の
生物を入れると、その数は300万から1億といわれている。
そして、その未発見の生物の大多数が海にいるんだよ」
「へぇー、そんなに! やっぱり海って凄いんだね」
優香は再び、海に見入った。
そして耕平も、それに習うように海を見つめた。
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「魚人間と蛙人間さ」
「えっ、そう…だっけ…?」
「うん。でも、だからと言って『不思議の国のアリス』と
『クトゥルー神話』を結びつけるのには無理があるけどね」
「…そうだよね」
「それよりも不思議で仕方がないのは、この作品が児童文学の名作と
誉れ高い評価を受けているけれど、子供たちは本当に理解して
読んでいるんだろうか?」
「どういう意味?」
「分かりやすく翻訳してあるとはいえ、意味不明の言葉遊びや
想像を超えたキャラクターが数多く登場するストーリー構成は、
今読み返してもかなり難解だと思うんだ」
「図書館に置いてある本の帯には『近代ファンタジーの傑作』って
書いてあったよ」
「いや、むしろ現代的で恐ろしいまでに細かい心理描写が施されてる。
結局、あの話しは夢落ちということで終わっているけれど、
あれ程までにグロテスクな光景を可愛い動物たちに置き換えて、
世に伝えた裏には何かあるんじゃないかって思うんだよね」
「心理操作? やっぱり、クトゥルー…?」
優香は覚えたての単語を大切そうに使ってみた。
「冴木さん、自動書記って言葉、聞いたことある?」
「ワープロとかファクシミリのこと?」
「違うんだ。遠くにいる者、あるいはこの次元には存在しない者が、
ある能力によって一定の人物の手を借り絵や文字を書かせることを、
そう呼ぶんだけどね」
「じゃあ…」
「いや、ごめん。考え過ぎだ。ラヴクラフトとキャロルの交遊関係は
無かったし。それにこんな事を言ってたら、世にあるホラーや
ファンタジーは全てクトゥルーになってしまう」
「…うん」
結局はどんな仮説を立てようと、堂々巡りになってしまう事を知って
いても耕平はその一連の行為を楽しんですらいた。
それでも優香は耕平の言葉を真剣に聞き、次の言葉をじっと待って
いる。
(そういえば、キャロルの小説のあの意味不明な言葉はインスマス語
ではなかっただろうか?どこの国の言葉でもなく、ただあの町の
ヤツらだけが発する言語、それがインスマス語)
耕平は自分が提示した事柄を確認するように、再び考えを
巡らせた。
(そもそも「クトゥルー」と言う単語すらも正しくはないのだ。
「クトゥルフ」、「クスルー」という人もいれば「クリトルリトル」
という人もいる。
ルイス・キャロルか…旅行から帰ったら一度調べてみようか…)
「それにしても冴木さんが、こんなに関心を示すなんて
思わなかったよ」
優香の熱い視線を感じた耕平が言う。
「う、うん…そうね。実は自分でも、ちょっと驚いてる」
優香は照れ隠しするように、車窓に広がった広大な海へと視線を
移した。
「冴木さん。地球上には、どの位の種類の生き物がいると思う?」
無言で海を見続ける優香に聞いてみた。
「うーん、1万位? 2万かな。もっとなの? 10万?」
なかなか首を縦に振らない耕平を見ながら、優香は数字を
上げていく。
「地球上に確認されている生物の数は大体100万種だ。未発見の
生物を入れると、その数は300万から1億といわれている。
そして、その未発見の生物の大多数が海にいるんだよ」
「へぇー、そんなに! やっぱり海って凄いんだね」
優香は再び、海に見入った。
そして耕平も、それに習うように海を見つめた。
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更新日:2015-07-11 16:27:40