• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 36 / 129 ページ
++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 改札を抜け、東北方面に向かう列車のホームへ向かう。
 季節が夏ということもあってか、4人が目指すホームには人影は
まばらだった。

「あのー…三枝先輩ですよね。…えーと、私、榎本麻里っていいます。
よろしくお願いします」
 ホームに着くや、麻梨は荷物を下ろし口を開いた。
「三枝健二です。こちらこそ、よろしく」
「それで、こっちが冴木優香。私達、耕平君と同じミステリークラブに
入ってるんですけどー、お会いするのは今日が初めてですよね」

「うん。オレ、ラグビー部にも籍を置いてるんだけど、そっちが
忙しくてほとんど顔を出してないんだ。でもこれからは、なるべく
行くようにするからさ」
「健さん、聞いて下さいよー。麻梨だって入部してから一度も
クラブに出てない…ぐえっ! 痛ぇーっ、な、何すんだよ」
 一瞬の隙をついて耕平の脇腹に、麻梨の『幻の右ストレート』が
炸裂した。

「そうなんですかー、どうりで。じゃあ、これからは色々とお話しが
出来ますね」
「そうだね。よろしくね。お、おいっ、耕平どうした? 腹でも
痛いのか?」
 苦しそうに脇腹を押さえながら、座り込んでいる耕平に声を
かけた。
「うう…い、いや、何でもないッス」
 そんな3人の会話を優香は後ろから、懸命に笑いを堪えながら
聞いている。
 そこへタイミング良く電車が入ってきた。
「指定席を買ってあるから、それぞれ切符に書いてある番号の所に
座るように」
 耕平は事前に買ってあった切符を配り終えると皆、車両に乗り
込んだ。

「三枝先輩は何番ですか?」
「俺? 俺はねー、えーとEの2番」
「やったー! 私の隣ですぅ。ラッキー」
「私はFだから…あ、ここね。あれ? ちょっと待って! でもこれ
車両が違うよ」
「え? 嘘…あれ? 本当だ。俺のも番号違う。じゃ健さんと麻梨は
ここで合ってて、俺と冴木さんの持ってる2枚が別の車両なんだ」

「耕平、お前、商店街の旅行代理店で買っただろう? あそこは結構、
いい加減で有名なんだぞ」
「参ったな…ちゃんと同じ席でって4枚頼んだのになー」
「どうする? 男女別れて座るのか?」
 健二の意見に、すかさず麻梨が反論する。
「えーっ、これでいいじゃない。ねえ? 優香も耕平もいいよね?」

「お、俺は別に構わないけど…」
 目線をちょっと逸らして耕平は言った。
「私も別にいいよ。それに時々、替わればいいじゃない」
 優香も賛同する。
「じゃ、決まりだな。まずは一旦、このまま座るか」
「わーい。先輩と一緒だわ。やったー」

 耕平と優香は隣りの車両に移り、席を見つけると手荷物を次々と
頭上の荷物棚へと載せていく。
「ねえ」
 優香が座り、耕平を見上げながら言った。
「何?」
「乗車券だけど、もしかして…」
「うん」
 荷物を上げ終えた、耕平も優香と向かい合うように座った。
 この時点で、隣に座ってくる乗客はまだいない。
「ううん、何でもない」

 二人の短い会話が途切れると、電車はゆっくりと動き始めた。
「楽しい旅行になるといいね」

 月並みな優香の台詞だったが、少なくとも夏休み前のアトリエでの
不可解な出来事を忘れさせるには十分だった。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

更新日:2015-07-11 16:22:47