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小説

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第6章 海に降る雪

挿絵 385*287

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上野駅構内の待ち合わせ場所、頭上にある大時計の針は
午前11時を15分程回っていた。

「おっせーなー、あいつら。11時前には集合って言ったのに」
「ま、耕平、そうカリカリするなよ。男と違って女子は色々とあるのさ」
「先輩は甘いんですよ。やっぱり、こうゆうのはビシッと言わなくっちゃあ。
これも部活動の一環なんだし」

「おいおい。さっきも言ったけど、ここは学校じゃないんだから
『先輩』ってのはやめろよ。いつも通りでいいよ」
「そうですね。じゃ、旅行中は『健さん』って呼びますよ」

『健さん』と呼ばれた青年は、髪は短くスポーツ刈り、がっしりと
した体型に日に焼けた肌…耕平の幼馴染みであり子供の頃からずっと、
高校に至るまでの親友『三枝健二』の事だ。

 家が隣同士という事もあって、二人はいつも一緒にいる事が
多かった。
 しかし中学校に入った頃からか、お互いの目指すものに多少変化が
出た。
「健さんは、やっぱり来年は体育大に進学ですか?」
「ああ、オレは身体動かしてる方が性に合ってるからな。耕平は
文系…か。初めてだよな、進路が分かれるのは」

「そうですね。でも隣同士だから案外、毎日でも顔合わせるんじゃ
ないですか?」
「おまえ、嫌そうだな」
「そんな事ないですよ。健さんが朝、庭で稽古してる声を聞いて俺、
いつも目覚めるんです。言うならば健さんの朝トレは俺の目覚まし
時計ですね」
「あんまり嬉しい例えじゃねえなぁ」

 1分経過するごとに、時計の長針がピタリと移動し刻まれていく。
「そういえば、本を借りてたよなー。あれ、返さないとな」
「そうでしたっけ…あっちこっちに貸してるから分かんなく
なっちゃった」
 『あっちこっち』の中には優香に貸した分も含まれる。
「随分長く借りてるからな。『クトゥルー神話図鑑』とかいう
やつだよ」
「あー、思い出した。あれかー。別にいいですよ、いつでも。
どうせ全部、イラストばかりの本だし…」
「写真に残せた者がいないんだろうから、それは仕方ないさ」
「そりゃあ、そうですね…あっ! やっと来たみたいだ」

 人ごみの中を、真っ直ぐ自分たちの方へ向かってくる二人組を
見つけた。
「おーい、遅いよー」
 優香と麻梨は共に、大小のバッグを一つずつ持ってきている。
「ごめんなさーい」
「準備に思ったより手間取っちゃって」
 到着すると、二人は息を切らしながら頭を下げた。

「まー、間に合ったからいいけどさー…それより二人とも、その格好…
何?」
「何って、変…かな?」
 耕平は呆れて思わず右掌を顔に押し当てた。
「あのさー、俺たちこれから楽しいデートに行く訳じゃないんだよ」

 耕平の言い分はもっともだった。麻梨はオフホワイトのサマー・
ジャケットに淡いピンクのフレアスカート。
 可愛いプリント地のブラウスに白いソックス、おまけに髪には
リボンという凝りよう…
 そんな麻梨のファッションに比べれば、優香の方はまだましな方
だった…ショートパンツにハイソックス、袖をめくったダンガリーシャツ。 加えて麦藁帽子!

 果たして、この二人の姿を見て、これから生涯に一度の大冒険に
出ようとは一体誰が信じるだろう?
「そうかなー、変かなー?」
 あらためて麻梨は自分の服装を見下ろした。
「大丈夫。ちゃんと二人とも着替えは持ってきたから…さ、行きましょ」
 優香が促す。

「そうだな。電車が来るまで、あまり時間がないから真っ直ぐに
ホームに行こう」
 4人のパーティーはアイテムをぎっしりと詰めたバッグを手に、
各自歩き始めた。


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更新日:2015-07-11 16:21:00