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第5章 夢の呼び声

挿絵 400*267

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「ただいまー」
「優香、遅いじゃない。今、試験中じゃなかった?」
 母親の声が玄関にいる優香の耳まで届いた。

「うん。でもお母さん、正確にはテストは今日で終わりよ」
 そう言うとリビングにいる母親の隣に座って、テーブルの菓子に
手を伸ばす。

「そう…優香はテスト勉強でテレビを見てないから知れないと思うけど、
第一中央病院で何か大変な事件があったらしいわよ」
「へー、何があったの?」
「当直の先生が殺されたんですって」

「あー、だから帰る途中、あんなに警察の人がいたんだ…」
「まだ終業式まで何日かあるけど、なるべく寄り道しないで早く帰って
来なさいね。犯人はまだ捕まっていないそうよ」
「はぁーーーいっ!」
 大きな口を開けて返事をしたのに倍する位の大量の菓子を
鷲掴みにして、優香は立ち上がった。

(ジョナサンも帰ってきたし、もうあの病院には行くことは
ないわよね)
 優香の心配事は、いかに手の中の菓子をこぼさずに自分の部屋まで
運ぶかの一点に絞られていた。



……
………
…ユ…カ………

…ユカ……

(? …誰?…)

…ユカ…私ノ声ガ分カリマスカ…

(誰なの? ジョナサン?)

 忘レテイタ事ヲ…思イ出シ…

(ねぇ、ジョナサンなんでしょ?)

 …現実トノ相違ニ気ヅケ…

(何を言ってるの?)

 …世界ノ果テガ…見エテ来ルマデ…

(?)

 時ノ流レト川ノ流レガ結ブ…切レル…場所ニ…


「うーーん…」
 優香は目を覚ました。そしてたった今、夢の中で囁かれていた言葉の
意味を探った。
(何て言ってたっけ?…えーと…『忘れていた事』?『現実との相違』?
『時の流れと川の流れが結ぶ場所』…?…はっ!)

「大変だわっ!」
 自分の耳に届けられた言葉を脳裏で復唱し我に返った。
「行かなくっちゃ…」
 ベッドから降りると早々に支度を始めた。

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更新日:2015-07-04 18:49:37

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