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第4章 ラヴクラフトの残した遺産(もの)

挿絵 240*320

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 麻梨と同じく教室の違う耕平が、休み時間に優香を訪ねてきた。

「冴木さん、今日の試験どうだった?」
「あっ、沢本くん。んー、もう全滅。やっぱ一夜漬けはダメね。
沢本くんは?」
「俺? 俺は、もう最初から投げてるから」
「うっそー?」
「ホント。俺ね、マジに答案用紙見れない体質なんだ」
「なんで?」
「小二の時だったか、吐いちゃったんだよテスト中に。みんなガキ
だったから大騒ぎになっちゃってさー、もう恥ずかしいやら、
みっともないやらで未だにトラウマってワケ」
「なーに、それ。可笑しい」

「あはは…あっ、そうだ。これを渡すために来たんだった」
 手に持っていた布袋を机の上に置いた。
「なーに? 私のために、お弁当を作ってきてくれたの?」
「相変わらずの天然ボケがいい味出してるよ。でも残念ながら
袋の中身はいたって真面目なものさ」
 耕平が中から数冊の本を取り出して見せた。

「あっ! ラヴクラフトの本ね」
「うん、貸すって約束したからね。とりあえず3冊持ってきたよ。
『クトゥルー神話大全』だろ、『定本H・Pラヴクラフト』に『魔導書の
神秘』、どれも入門書みたいなもんだから気軽に読めると思うよ」
「ありがとう…でも…」
「あー、急いで返してくれなくてもいいよ、試験中だし。なんだったら、
ずっと持っててくれてもいいよ。嫌じゃなければ」
「嫌だなんて、そんな…じゃ、二学期始まる頃まで借りとくね。いい?」

「いいよ。それよりさー、どうだったの?昨日の外人。ジョナサン
だっけ?」
「うん、大したことないってお医者さんは言ってた。そうだ、後で
病院に電話してみようかな。もう、元気になってるかも」
「そんで、お見舞いに行けば喜ぶと思うよ」
「そうね、そうしよう。沢本くんも行く?」
「俺、今日ちょっとクラブに顔出すんだ。ゴメン」
「試験中なのに?」

「うん。多分、夏休み中の課題か何かだろうけど…ま、よろしく言って
おいてよ。今度遊びに行くからって」
「オッケー」
「じゃあね」

 優香は耕平が去った後、本の表紙に描かれた絵に目を
奪われていた。
 それは、あの倉庫の二階で見た油絵の生き物と何ら変わることのない、
グロテスクなものであった。

(これが…クトゥルー…)

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更新日:2015-06-28 16:10:30

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