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「ねえ、気が付いた?」
 麻梨は校門を出てしばらく歩くと優香に聞いた。
「何が?」
「私たちの後ろから誰かがつけてきてるみたいなんだけど…」
「えぇっ?」
「振り向いちゃ駄目よ!」

 立ち止まって後ろを振り返ろうとした優香の腕を掴んで制止した。
「なんで?」
「いいから。何事もなかったように歩いてね。オッケー? そんで
公園に入ったら門の影に隠れて待ち伏せするの…」
「麻梨! そんな事して痴漢だったらどうするのよ!」
「その時は、ふんづかまえて二人でボコボコにしてやるのよ」
「出来るわけないじゃないっ」
「大丈夫よ。いい?同時に左右に隠れるのよ」

 二人は公園に入ると両脇の門の死角に別々に身を隠した。
 とはいえ、相手が園内に入ってしまえば見つかるのは必定だった。
 それでも、二人は息を殺して潜んでいたが待つまでもなく、
その影は現れた。
「今よ!」
 麻梨は明らかに先制攻撃をかける事によって優位にことを運ぼうと
したが、相手の姿をその視角に完全に捕捉した時、立てていた計画が
無意味であった事に気づいた。

「耕平?」
「沢本くん!」
 二人は呼び方こそ違えど、ほぼ同時に驚きの声を発した。
「やあ。お二人さん」

 沢本耕平。同じ高校に通う同級生、そして同じクラブの仲間。
「やあ、じゃないわよ。あんた何してんの? こんな所で」
「それはこっちが聞きたいね。クラブにちっとも顔出さないで、部長
怒り狂ってるぜ」
「優香、私たちクラブなんかに入ってたっけ?」
「うん、入ってるよ。ミステリークラブね」
「ああ、あれね…思い出したわ。でも、もう辞めたの。優香も早く
辞めた方がいいよ。根暗なヤツばっかりだから」

「…だって麻梨が入ろうって言うから…」
「あの時は一時の気の迷いで愚かなことをしてしまった…
優香まで道連れにしてしまって、申し訳ないと反省してる。
でも私たちの青春は今始まったばかりよ! まだ取り返せるわ。
過去に失った貴重な時間も、ね。」

「あれ? カッコイイ人がいたから、とか言ってなかったっけ?」
「重ね重ねゴメン、優香。忘れてね。あの日の私ったら本当に
どうかしてたのよ」
「お前らさー、俺の話聞く気ある?」
 痺れを切らした耕平が口を開いた。
「あらー? あんた、まだいたの」

「全く、お前らに付き合ってると貴重な青春を見失いそうだぜ」
「その台詞は私の十八番よ。それで? 何の用なの。痴漢の
真似までまでして」
「とにかくクラブ辞めるなら辞めるで顔ぐらい出せよ。退部届けだって
出してないだろう?」
「それを言うためにわざわざ後をつけてきたりしたワケ? ご苦労な
事ね」
「う、うん」
「面倒くさいから耕平やっといてよ。私たち忙しいの。ねっ、優香」
「ごめんなさい。沢本くん」
「全くしょーがねーなー。また俺、部長に怒られちまうよ」
「なんで、あんたが怒られるわけ?」

「まー、その…色々とあってね。ところで何してんだ、こんな所で」
「外人さんの家に絵を見に行くのよ。耕平は早くクラブに戻って、
オバケの話しの続きでもしてれば?」
「もうイイよ。今から戻っても途中からだし…それより俺もその絵が
見たいな」

「あーら、耕平に絵を鑑賞するような高尚な感覚が備わっていたとは
意外ですわ」
「お、俺だって絵ぐらい見るよ。ゴッホだろピカソだろ…それにユトリロだっけ?…」

 優香はそんな二人の会話をそばで聞いていて、腹を押さえて座り
込んでしまうほどに笑ってしまった。

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更新日:2015-06-27 16:14:35

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