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挿絵 302*403

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「やはり冴木さんは来た道を戻って帰り道を探してよ。僕は
思い切って飛び込んでみようかと思う」
「やめた方がいいわ。本当にすごく高いの…きっと死んじゃう…」
 何度見下ろしても足がすくみ、クラクラする。

「冴木さん、僕は今…絶望の淵に立たされてるけど…別に自殺しよう
とか考えてる訳じゃないんだ…生きて帰れる僅かな可能性にかけて
みようと思ってるんだ…」
「でも、ここで待ってれば…助けが来るかも」
「ジョナサンは恐ろしい奴だ。健さんは最初から死ぬのを覚悟で
僕らの為に時間を稼いでくれた。ここにいてジョナサンが来るのを
待つくらいなら、賭けてみたい…」
「…だったら、私も飛び降りる!」
「駄目だよ。冴木さんは、まだ歩ける体力がある。…僕はもう流されて
誰かに救われるのを待つ以外、望みは無いんだ。それに、ジョナサンは
冴木さんを殺さない気がする…」

「そうだとしても嫌っ! 沢本君が飛び降りるんなら、私も
飛び降りる!」
「冴木さん、飛び降りるんじゃないよ。飛び込むんだ…」
「…うん」
 優香がコクリと頷く。
「本当にいいんだね? じゃ、僕が先に行く…それほど高いのなら
滝壷の深さも相当あるだろうね。出来れば落ちた時の衝撃で
気を失ってくれれば溺れなくて済むんだけどな」
 耕平が明るくなってきたのを頼りに一歩、歩み出た。

「あ、待って…」
 優香が中腰の耕平を胸にしっかりと抱きしめる。それから耕平の
頬に両手を当て唇を合わせる。

「お願い…死なないで」
 キスの後、優香は言った。
「死なないよ」
「同じ大学に行ける…?」
「そうだね…健さんは進路が違うけど麻梨も誘おうよ…」
「うん…うん!…う、ううっ…」
 優香がすすり泣く。堪らなくなった耕平が身体を戻し、さらに一歩
前に歩み出た。
 そこから先に、もう道は存在しない。

 結局、耕平は飛び込む体勢すら整えないまま、そのままの姿勢で
頭から落ちていった。
 優香は耕平が滝壷に消えたのを確認すると、大きく深呼吸をして
自分も続いた。


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更新日:2015-08-24 19:29:50

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