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第16章 想いは果てなく

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「麻梨ーーっ!!せんぱーい!」
 優香が穴から飛び出し2人の元へ行く。耕平も、すぐに続きたかった
が身体が思ったように機能してくれない。
「う、うう…」
(ま、まずい…このままじゃ、まじでヤバイ…)
 横になりたいところを懸命に耐え、足を引きずるようにして移動を
始める。

「先輩…た、大変っ! 血が…すごい怪我…どうしよう…」
 背中から噴き出した血がうつ伏せている麻梨のシャツをも赤
く染めた。
「冴木さん…悪いんだけど…俺のリュックの中に応急処置の薬が…
入ってる。持ってきてくれないか…」
 健二は伏せた姿勢から頭だけ上げ、荷物の場所を示した。
「分かりました。私、持ってきますから! じっとしていて下さい」
 再び、優香が駆け出す。入れ替わりに耕平が着き、健二に声を
かけた。

「先輩、酷い怪我だよ…」
「ああ…分かってる。あれは…さっきの化け物は、どうした?」
 覆い被さっていた麻梨の身体から離れる。
「消えたんだ…冴木さんによれば、どこからか声が聞こえて…
それで、言われた通りに呪文を唱えたら…いなくなったんだって」
「そうか…それで助かったのか。次に襲われていたら間違いなく
俺は喰い殺されてたろうな…」
「でも出血が止まらないよ。早く医者に見せないと…。麻梨は…
麻梨は大丈夫?」
 何も言わない麻梨に声をかけてみた。

「私…あんまり…大丈夫じゃ…ないよ…」
 少しだけ目を開け答えた。転倒したときに膝や脛を擦りむいたようで、
こちらも血が滲んでいる。
 だが健二の傷の方は、その比ではない。あっと言う間に腹ばいに
なった場所に大きな血だまりを作った。
 何も持たず、力も出せない耕平には救う術(すべ)はなかった。
 両手にリュックを持って戻ってくる優香を祈るように待つ。

「健さん…俺達は、ここで死ぬんだろうか?」
「馬鹿言ってんじゃねー! たとえ死に直面するような…事になっても、
生きる希望を捨てるなと言ったのはお前だろう…俺達は…どんな事が
あってもココから生きて出るぞ。いいな? 今は…それだけを考えろ」
 いつになく弱々しい喋り方に希望の炎は揺らぐ。

「先輩…私、さっきから眠くて…もう、起きてるのが…辛い…」
「眠っちゃ駄目だよ。麻梨ちゃん、ほら一番の友達が戻ってきたよ」
 優香が息を切らして戻ってきた。リュックを下ろすと、すぐに
消毒薬や血止めを塗り、丁寧に包帯を巻き仰向けにして結んだ。

 耕平も飲み物を取り出し、麻梨と健二に飲ませると自分も口に運ぶ。
(荷物は持てない…ケミカルライトが2本残ってる。これだけは
持って行かないと…)

 麻梨が身体を動かし、健二の太股の上に頭を預けた。
 健二は手を伸ばし、いとおしむように麻梨の髪を撫でる。
「せん…ぱ…い、私…もう…駄目…みたい…眠い…」
「麻梨ちゃん、駄目だよ。絶対に眠っちゃ駄目だ。帰るんだから」
 目を閉じようとする麻梨の頬を叩き続ける健二。

「先輩、ここで少し仮眠を取ってから出るのはどうでしょう? 
沢本君も辛そう…」
 3人の安否を気遣いながら提案した。
「駄目だ…眠ったら最後、もう目を覚まさないかもしれない。大量の
血を抜かれたんだ…今すぐに輸血しないと…」
 耕平も座っているのが辛くなり、横になって身体を丸め震えている。
「私、村に戻ってお医者さんを呼んできます!」
「無茶だ…一人じゃ帰れないよ。まだ何があるか分からないし、
それにこんな時間じゃ医者も…寝てるよ…」
 耕平は一人で行こうとする優香の身を案じ止めた。

「でも…どうしたら…?」
 一人だけ元気な優香が力を出せず、がっくりと項垂れると再び、
脳内を震わす声の進入を感じた。
 たった一言の、その言葉は強引に脳内を駆け回り優香を慌て
させた。
[…優香…]
 己の意思によって受け入れる事も、拒絶することも不可能な進入は
明らかに先程の声とは別者だったのだ。

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更新日:2015-08-24 19:22:14