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「北高に入学してしばらく経ってから、土曜日か日曜日だったと思う…」
優香も耕平の目を見つめ返しながら、遠い日の記憶を辿っていた。
「駅前の本屋さんに行った時よ。参考書か漫画か忘れちゃったけど、探してる
内に偶然、沢本君を見つけたの」
「え? だって、その頃は僕の事なんか知らないでしょ?」
瞬きすることも忘れて耕平は話しに集中した。
「もちろん、そうよ。ただ沢山の本を抱えてレジに並んでいるのを見て、
あー、きっと私と同じくらいの年だろうなって見てたの」
「なんか、恥ずかしいよ。そんなところを見られてたなんて」
「そんな事ないよ。上手く言えないけど素敵だなーって思った。初めて
見たのにこんな気持ちって変かな…そんでね、麻梨と知り合ってクラブに
入ろうって誘われて行ってみたら、沢本君がいるじゃない? もう
ビックリ!」
照れ隠しするようにジェスチャーを交えながら話す。
「そうだったんだ。言ってくれれば良かった…」
「何て言うの? 前に本屋さんで見ましたって言うの? 言えないよ、
そんな事。恥ずかしくて…それに麻梨もいたし」
「それなら、せめてもっとクラブに顔出してくれれば良かった。
そうすれば僕らはもっと早いうちに友達になれたかもしれないのに」
「え…?」
「僕も冴木さんのこと気になってたんだ。初めて部室に来てくれた日の事が
ずっと忘れられなくて。でもあれ以来、冴木さんちっとも来てくれないから
初日に何か嫌われるような事でも言っちゃったかなとか思ってさ」
「嫌いだなんて…そんなことない。でも一人じゃ行けなかった。男子ばかり
だったし」
「確かにそうだね」
「でも、あの後は麻梨も行ってないと思ったけど退部にはなってなかったのね」
「それについては僕が部長に頼んで留めて貰ったんだ。それに女子部員は
貴重だからね。新入生を引き込むのも女子の名前があった方が
いいんじゃない?」
「そっか…」
耕平の優しい配慮に返す言葉を捜したが見つからないでいた。
「部に来ない日も2人の事をよく知ってるフリして、いつも適当な言い訳
ばかりしてたよ」
「ごめんなさい」
優香の言葉数は減っていく一方で、ここでも一言礼を言うのがやっとだった。
「健さんとは大学は別々になると思う…冴木さんは、もう進路は決めた?」
「…ううん…」
「そっか。まだ時間はたっぷりあるしね。でも出来れば同じ大学に行きたいな」
「うん…」
今度は優香の口数が減る中、耕平が何とか話しを繋ぎとめようと努力した。
だが、その内容は時折、優香への好意以上のものを感じさせ、返事を返す
ごとに胸の鼓動は早まっていった。
「この旅行は本当に大変な事ばかり起きたけど、今日という日も、この場所も
僕らにとって大切な忘れられない思い出になるといいな」
長い長い台詞だったが耕平は勇気を持って、そう告げた。
「…うん」
恥ずかしさに一旦俯いたが、再び顔を上げると目を閉じ静かに耕平を待つ。
辺りはすっかり霧に包まれ自分達以外には、もう何も見えない。
耕平は優香の小さな唇にそっと口づけた。
「やっぱり…もっとクラブに行っておけばよかった…」
短いキスのあと、優香はまた俯くと、そう呟いた。
「大丈夫。無くした時間はこれから取り戻せるよ」
「うん、そうだね。ねぇ、また霧が深くなったね。怖いから何か
お話しして」
「いいよ。また雑学?」
「なんでもいい…」
優香が耕平の肩に頭を乗せると、耕平は右手を伸ばし優香の身体を
しっかり抱き寄せた。
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「北高に入学してしばらく経ってから、土曜日か日曜日だったと思う…」
優香も耕平の目を見つめ返しながら、遠い日の記憶を辿っていた。
「駅前の本屋さんに行った時よ。参考書か漫画か忘れちゃったけど、探してる
内に偶然、沢本君を見つけたの」
「え? だって、その頃は僕の事なんか知らないでしょ?」
瞬きすることも忘れて耕平は話しに集中した。
「もちろん、そうよ。ただ沢山の本を抱えてレジに並んでいるのを見て、
あー、きっと私と同じくらいの年だろうなって見てたの」
「なんか、恥ずかしいよ。そんなところを見られてたなんて」
「そんな事ないよ。上手く言えないけど素敵だなーって思った。初めて
見たのにこんな気持ちって変かな…そんでね、麻梨と知り合ってクラブに
入ろうって誘われて行ってみたら、沢本君がいるじゃない? もう
ビックリ!」
照れ隠しするようにジェスチャーを交えながら話す。
「そうだったんだ。言ってくれれば良かった…」
「何て言うの? 前に本屋さんで見ましたって言うの? 言えないよ、
そんな事。恥ずかしくて…それに麻梨もいたし」
「それなら、せめてもっとクラブに顔出してくれれば良かった。
そうすれば僕らはもっと早いうちに友達になれたかもしれないのに」
「え…?」
「僕も冴木さんのこと気になってたんだ。初めて部室に来てくれた日の事が
ずっと忘れられなくて。でもあれ以来、冴木さんちっとも来てくれないから
初日に何か嫌われるような事でも言っちゃったかなとか思ってさ」
「嫌いだなんて…そんなことない。でも一人じゃ行けなかった。男子ばかり
だったし」
「確かにそうだね」
「でも、あの後は麻梨も行ってないと思ったけど退部にはなってなかったのね」
「それについては僕が部長に頼んで留めて貰ったんだ。それに女子部員は
貴重だからね。新入生を引き込むのも女子の名前があった方が
いいんじゃない?」
「そっか…」
耕平の優しい配慮に返す言葉を捜したが見つからないでいた。
「部に来ない日も2人の事をよく知ってるフリして、いつも適当な言い訳
ばかりしてたよ」
「ごめんなさい」
優香の言葉数は減っていく一方で、ここでも一言礼を言うのがやっとだった。
「健さんとは大学は別々になると思う…冴木さんは、もう進路は決めた?」
「…ううん…」
「そっか。まだ時間はたっぷりあるしね。でも出来れば同じ大学に行きたいな」
「うん…」
今度は優香の口数が減る中、耕平が何とか話しを繋ぎとめようと努力した。
だが、その内容は時折、優香への好意以上のものを感じさせ、返事を返す
ごとに胸の鼓動は早まっていった。
「この旅行は本当に大変な事ばかり起きたけど、今日という日も、この場所も
僕らにとって大切な忘れられない思い出になるといいな」
長い長い台詞だったが耕平は勇気を持って、そう告げた。
「…うん」
恥ずかしさに一旦俯いたが、再び顔を上げると目を閉じ静かに耕平を待つ。
辺りはすっかり霧に包まれ自分達以外には、もう何も見えない。
耕平は優香の小さな唇にそっと口づけた。
「やっぱり…もっとクラブに行っておけばよかった…」
短いキスのあと、優香はまた俯くと、そう呟いた。
「大丈夫。無くした時間はこれから取り戻せるよ」
「うん、そうだね。ねぇ、また霧が深くなったね。怖いから何か
お話しして」
「いいよ。また雑学?」
「なんでもいい…」
優香が耕平の肩に頭を乗せると、耕平は右手を伸ばし優香の身体を
しっかり抱き寄せた。
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更新日:2015-07-23 16:52:34