- 23 / 29 ページ
喪失
縄を切って逃げ出し、ぼろぼろになって家に辿り着くと、少女が不安そうな顔で宰の帰りを待っていた。
結局、勝手に自力で逃げ出せ、ということだったらしく、扉に鍵も掛けられていなかったし、見張りがいた訳でもなかった。
ただ・・・。
もう、ミラには会えない。それだけが痛いくらい分かった。
ここに来て、はっきりと知る喪失感。彼女の存在が、俺を支えていたという事実。
この子がいなければ、俺はもう生きることに未練などなかったのかも知れない。
「ごめん・・・大丈夫だから。」
泣きそうな表情の少女の頭を撫でて、宰はとりあえずシャワーを浴びる。あちこちに青あざが出来ていて、しかも、鈍い痛みが身体の奥に残っている。なんだか吐きそうだ。
血や泥を洗い流してタオルを頭からかぶり、ぐったりとバスルームの鏡の前の洗面台に手をつくと、背後に少女の姿が映っている。
「・・・どうした?」
振り向くと、彼女は何かカップを手にしていた。ふと、スープの香りが漂い、少女が飲み物を用意してくれたらしいことを知る。
「ありがとう。」
おずおずとそれを差し出す彼女の小さな手からカップを受け取り、宰は微笑んだ。安物のスープの香りが、不思議と彼の心を和ませた。握ったカップが温かく、宰は胸の奥がじんとする。まだ幼い少女の掛け値なしの好意が、捨てられた男の心の傷に浸みた。
「そういえば、君の名前も俺は知らないんだよな・・・。」
去っていく少女の後ろ姿を見送って、宰はふらふらと自分の部屋へ戻った。
一口スープをすすり、それを机の上に置くと、宰はそのままベッドに倒れこみ、泥のような眠りに落ち込んでいった。
意識が闇に堕ち込みながらも、どこかで、ぼんやりと分かっていた。
キリアが・・・、こんな好機を逃す筈がない・・・と。
結局、勝手に自力で逃げ出せ、ということだったらしく、扉に鍵も掛けられていなかったし、見張りがいた訳でもなかった。
ただ・・・。
もう、ミラには会えない。それだけが痛いくらい分かった。
ここに来て、はっきりと知る喪失感。彼女の存在が、俺を支えていたという事実。
この子がいなければ、俺はもう生きることに未練などなかったのかも知れない。
「ごめん・・・大丈夫だから。」
泣きそうな表情の少女の頭を撫でて、宰はとりあえずシャワーを浴びる。あちこちに青あざが出来ていて、しかも、鈍い痛みが身体の奥に残っている。なんだか吐きそうだ。
血や泥を洗い流してタオルを頭からかぶり、ぐったりとバスルームの鏡の前の洗面台に手をつくと、背後に少女の姿が映っている。
「・・・どうした?」
振り向くと、彼女は何かカップを手にしていた。ふと、スープの香りが漂い、少女が飲み物を用意してくれたらしいことを知る。
「ありがとう。」
おずおずとそれを差し出す彼女の小さな手からカップを受け取り、宰は微笑んだ。安物のスープの香りが、不思議と彼の心を和ませた。握ったカップが温かく、宰は胸の奥がじんとする。まだ幼い少女の掛け値なしの好意が、捨てられた男の心の傷に浸みた。
「そういえば、君の名前も俺は知らないんだよな・・・。」
去っていく少女の後ろ姿を見送って、宰はふらふらと自分の部屋へ戻った。
一口スープをすすり、それを机の上に置くと、宰はそのままベッドに倒れこみ、泥のような眠りに落ち込んでいった。
意識が闇に堕ち込みながらも、どこかで、ぼんやりと分かっていた。
キリアが・・・、こんな好機を逃す筈がない・・・と。
更新日:2011-09-04 06:16:15