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夢に踊る

「ジュゼとリンに!」

マクバレンのおだやかな声に、テーブルを囲む二人の声が重なり、同じ台詞を唱和する。
打ちつけるシャンパングラスの清みきった音が、男たちの声にかぶさった。

シティの高い摩天楼さえ見おろす、丘の上の一等地に建つ白い邸宅。
その一階の広いダンスフロア。
オーケストラボックスから聞こえて来る、スウィングするジャズの軽快なメロディ。
開け放たれた窓から、爽やかな夜風が入り込んで、まるですべてを祝福しているようだった。

パーティーの主役ジュゼは、立ち上がると、カレッジ以来の友人、マクバレン・ホガース・コールネルたちに優雅に礼をした。

「しかしまさかジュゼが日本からフィアンセを連れて帰ってくるなんて思ってもみなかった」
くせっ毛のブロンドをかきあげると、細面の顔に笑みを浮かべてマクバレンがいった。

「まったくだ。 だが俺はジュゼがファミリーを継いだことの方がおどろきだな。おまえはそのまま絵描きになると思ってたのに」
短い黒髪にダークフェイスのホガースが、手を広げると、マクバレンの言葉を引きとっておどけてそういい放つ。
がっしりとしたホガースの身体を、隣に座るコールネルが肘でつついた。
するどい目をわずかにしかめ、その話はするなといっている。
鞭のようにしなやかなコールネルを一瞥して、ホガースが「すまん」と声を落としてあやまった。

「いいさ。 兄さんがいないんじゃ、あとは僕しかいなかったんだ。 しかたないよ」
ホガースを気遣って、ジュゼは明るくそういって微笑むと、シャンパンを口にして三人をみやった。
マクバレンがパンと手を打ち鳴らす。乾いたその音が空気を換えた。

「血なまぐさいことはもう終わったんだ。 俺たちはこれから平和なこの街で、ファミリーをひっぱっていけばいいさ。 今夜はジュゼの披露宴なんだ。かたい話は抜きでいこうぜ」
それぞれの表情で三人がうなづく。

シャンデリアの明かりを受けて輝く、クリスタルグラスを見つめながら、ジュゼは思いを過去に飛ばした。

更新日:2011-09-19 14:39:31

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