• 27 / 68 ページ

夏の終わりに時の旅を

夏休みもあとわずか三日となったある日。
孝太郎は小学校の宿題をかたづけるため、町の中央公園内にある図書館に来ていた。

一番前。窓際の席に白いカンバス布のリュックを置くと、この町の歴史を調べるための資料を探し始める。
パソコンで検索してヒットしたその数にうんざりしながらも、読めそうなものを集めて小柄な身体いっぱいに抱え込んで、細い腕をぷるぷる震わせながら運んで机の上に並べて目を通し始めた。

思っていた通り、五冊も見ないうちに眠くなってきて、うとうととしてしまう。
歴史好きなので自由課題にこのテーマを選んだのだが、孝太郎は戦国時代とかに興味があっただけなので、さむらいがいない近代の歴史にはあくびが出た。
歴史物のテーマはこれしかなかったからしかたないのだが、今はかなりうんざりしていた。

小さな蒸気機関車が街中を走っている白黒のスナップ写真を見つめながら、『あ~これだけはあんまり今と変わらないや』などと、頬杖をついてぼーっとしてきた頭で考えていたら、そのままこくりこくりと舟をこいで、眠りの海へと入っていってしまった。




さわさわと撫でるように髪をなぶる風の感触に目を覚ました。
『マズッ。 ねちゃったよ』
まだぼんやりとした頭で、目をこすりながら身体を起こして気がついた。

『あれっ。 なんで横になってねてたの?』
答えはすぐに出た。 ふかふかと下草の生えた木の下で眠っていたのだ。
ぎょっとして立ち上がると、まわりは高い木々にかこまれた、うっそうとした森だった。
どこを見渡しても、図書館どころか家一軒みあたらない。

わけがわからなかったが、恐さに背を押されて、その森の中を駆け出した。

更新日:2011-09-11 15:37:27

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook