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パンドラの中の希望






初めて生きている女をみた。






悲しくなるほど鮮やかに抜ける空の下で焼ける砂漠。
まっすぐに地平線の彼方まで伸びる一本道を、古いオープントップのフォードが走っている。

ラリーはハンドルを握ったまま、まぶしい陽の光にかすむ目をこらして前を見ていた。
カーステレオからOverDriveが効いたギターの音色がしている。なんの曲だったか思い出せない。

「パメラ・・・・・・」
排気音とエンジン、そして風が唸る中、そうつぶやいた。




自由と居場所。
それを求めて、孤児院からディノと抜け出し、夜の街で生きていくうちによく似たバクシーと知り合って、三人であらゆる事に手を染めた。

自由を保障する金の匂いがするところを探り出し、それを銃でかき集める。
傍から見ればそれは荒んだ日々に見えただろう。だが三人はいつも笑っていた。

冷たい鉄の塊を握って震える心を馬鹿にして、追われる恐怖を笑い飛ばし、クライムの沼に沈みながらも、いつも顔を見合わせてはお互いを指差して笑い転げた。

考え込んだ奴から沼はすっぽりとそいつを飲み込んでしまう。
それもあったが、ただ楽しかったのだ。

臆病なのに自分たちの後をついてくるディノ。クールで虚無なのにどこか熱いバクシー。

あだそんな二人と、ただ思いつくままにやって暮していると、いつもラリーは空を飛んでいるような自由を感じた。
どこまでも、どこまでも高く、あの太陽だって越えてゆけるような飛翔感。そして同じそれを感じて笑い合える仲間。

『ほかになにがいるっていうんだ』
そう思い、満足だった。 パメラに会うまでは。




事務所代わりにしていた酒場で、ナインボールを突きながら次の計画を話し合っていた。
薄青い照明の下、煙草の煙とノイズのような人の声が漂う中、彼女が店に入ってきた時、ラリーの眼球はまるで操られたように、その姿に吸い寄せられた。

海中で揺れる夜光虫のように輝く金髪。サンゴのように細く脆い美しい肢体。

キューを止めて動かないラリーの視線を追って、バクシーとディノも入り口に目を向ける。

視線が絡んだ。
だが、その目はラリーだけをまともに射抜いていた。

嘘、打算、媚、値踏み。この街の全ての者が持っているそれは、心と目を曇らせる。生きた目をどろりと濁らせる。

だが彼女のすみれ色の瞳は生きていた。

はじめて見たそんな目に、ラリーの背筋がゾクッと震える。
心の中で、何かの引き金が落ちる音がした。

森の中で突然、自分と同じ獣に出会った。懐かしいたどり着いた、そんな予感に全身が痺れる。

そして同じ思いを彼女も感じていることがわかった。

雲の上にいる誰かの気まぐれで、ラリーと彼女は出会い、まばたきの間に恋に落ちた。

更新日:2011-09-10 22:31:06

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