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Dear !

ハァ ハァ
息が上がって、足が重くなってきた。

『近所の裏山だとおもって、ちょい舐めすぎてた』
心の中でそう悔やんで、延々と上にむかって続いている坂の先に目をむけた。

「絢香、だいじょうぶ?」
すぐ目の前を歩いていた黒いジャージ姿の町子が振り返って言う。

『もう帰ろうよ』という言葉を飲み込んで、額の汗を拭いながら無理に笑って絢香はこたえる。

「うん、大丈夫、へーき」
「きつかったら言ってね」
「うん・・・・」

また坂の先を目指して歩き始めた彼女の背中を見つめながら、自分も進み始める。

『きょうはあたしが町子をなぐさめるんだ!』
そう決めて、山に連れて行ってと頼んだのだ。

おとつい絢香は、別の友人から町子が高校の頃から付き合っていた彼と別れたことを聞いた。

どんな理由があって、あの仲の良かった二人がそうなってしまったのかはわからない。
そんなことより、いま絢香は町子の心を想って、ずっと何ができるかを考えているのだ。

絢香が去年、ふられて部屋に閉じこもってしまった時、町子は出てこない友人を無理に引き出そうとはせず、一晩中ドア越しに話しかけてくれた。
答える声もないのに、優しく、どうでもいい話を朝日が昇るまで続けてくれた。

そのいたわりが、絢香にドアを開く勇気を与えてくれたのだ。
だから今度は自分の番だ、そうおもって、何が出来るのかわからないまま、こうして町子の散策に付き従っている。

更新日:2011-08-15 01:36:20

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